小連載
10
それだけは、言わなければならないと思ったのだ。
「あなたは、あの子の縁者なのですか?」
そう、あの人に尋ねられた時に。
私が答えたのは否、だ。
実際、私はあの子と血の繋がりは無い。
村は人口も少ない地域だったので、遡ればご先祖様あたりで繋がっているのかもしれないが、そうだとしても確実に他人レベルだ。
あの子の両親の、若い頃よく顔を合わせたご近所さん。
「人に頼まれて探している子供がいるだけです。聞いたところ、あの子は銀時というのでしょう。ならば彼は、私の探している子供ではありません。」
吉田松陽という人は、聡かった。
それだけ言えば、理解してくれた。
私が探していたのはご近所さんの忘れ形見である何某という名の子供。
萩の村塾の銀時などという子供ではないのだ。
そう理由をつけて、連れて帰ることをすっぱりと諦めることを、この人に言っておかなければ、と。
あの子の将来を勝手に決めつけた私の心情を無言のままで理解してくれた。
正直に言うと、あの子を村に連れて行ったところで私が特に何をしてやれるという訳ではないのだ。
村が探している行方不明者の数は多く、捜索隊に所属している私は村に帰ったらまたすぐに次の地へ旅をすることになる。
もちろん、仲間意識の強い村が親のいない子供をほったらかしにするはずはないが、村へ連れていく私は必然的にあの子供を村まで送ったらそこでさようなら、だ。
そもそも第一に、あの子供自身が、この場所から離れて村へ行くことを望まないだろう。
この暖かな場所から離れてまで向かうほど、村に魅力はない。
「そうですか。安心しました」
「安心、ですか」
「ええ。・・・・・・それでは、あの子は私が続けて預かりますね。」
黙って頭を下げた。
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