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小連載



はい。

前回の通り、会ってきましたよ。

銀魂のキーパーソン吉田松陽さんに。



いや、こうして訪れるまではそれなりに噂は聞いたことがあったりした。

その噂というのも天人と謁見を望んだりして宇宙船を見に行ったり幕府に交渉したことがあるとか、なんだとか冗談みたいな話ばかりだが。



ぶっちゃけ言うと、私は初めから、彼と話をするどころか顔を合わせるつもりなんてさらさらなかったのだ。

探し子があの糖尿寸前主人公の坂田銀時ではないかと気が付き確信した時から、わざわざ探す必要もないのではと考えた。

髪の色や瞳の色であれこれ言われる時代、それらをひっくるめて許容して懐に入れてくれる誰かと巡り会う事がどれだけ幸運か、私は知っているつもりだ。

引き離すことは愚の骨頂、間に割って入ることは馬鹿。



それに。

坂田銀時は吉田松陽の弟子であるべき。



これは銀魂世界の重要な柱だろう。

だから私がそこへ足を踏み入れるなどしてはいけない。



そりゃあ、もしかしたら、あの子を今のうちに村へ連れて帰っておけばこの戦争も少しは早いうちに終結するかもしれない事はわかっている。

未来の坂田銀時ならば、当然白夜叉の道を通る。

吉田松陽の敵打ちのために戦場へ出て、攘夷志士となり、最後の侍の一人として、戦を後戻りできないところまで推し進める。

たくさんの天人を斬り、たくさんの死体の山を築き、たくさんの悲劇を生んで傷をつくる。

そんな鬼になる。



だが。

それは未来の話だ。

吉田松陽と引き離して村へ連れ帰り、白夜叉が戦場へ赴くのを今ここで阻止することが、私には可能といえば可能である。



未来の鬼達は悲劇すらも糧に戦を大きく育てて終わりを長引かせるのだろう。

地球側の一方的な消耗戦でしかないこの攘夷戦争は、長引けば長引くだけ悲劇を生む。

この紛争は、早く終わるべきなのだ。



だから私は、今は銀時と名付けられたあの子供を、あの人とこの場所から引き離して、村へ連れ帰るべきなのだろう。

それを実行する理由なら、正統すぎる理由が私にはある。



なにせ、私はあの子のご両親を知っているのだから。

病に伏しながらも子を案じていた夫婦に、その両方に私は、幼い息子を頼みますと死に際に言われているのだ。



だが、できない。

できるはずもない。



私はどうするべきなのか。

思考の渦に沈みながらも私は萩の地の土を踏んだ。


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結果からいうと、あの子供には顔も合わせず去ってきた。



偶然木陰から見つけたあの子供は、丁度竹刀を担ぎ、袴を穿いて防具をつけていた。

あっちこっちへ遊ぶ白い髪が日なたで銀色に輝き、数人の集団の中でも簡単に見つかった。

傍には年相応の子供たちや、生真面目そうな顔をした子供や仏頂面の子供、様々だった。



何を思ったのか一人の子供の背中に向かって蹴りを入れる。

蹴られた子供はすぐに振り返ってやり返す。

そして見る見るうちに喧嘩に発展していき、慌てて他の子供が止めに入る。



どこにでもある、子供の喧嘩だった。

そんな何でもないものを、村ではしょっちゅう見ていたそれ。

私はそんな風景を見ながらふと思った。



どこにでもある風景だ。

だけど。

どうしてこんなにも胸が締め付けられるのだろう?



恐らくはお話の中の登場人物に感情移入する様なものもあったのだけれど、それ以上に。

私は安堵したのだ。



10数年前、村の人間から色が消え始めて。

皆が村に引きこもって。

クーデターなんかも起こって、戦争の火の粉が降ってきて。

そのなかで。

あんな風に、黒い髪をした子供と、色の違う子供とが、そんなもの何一つ知ったことかと喧嘩できることなどなかったから。

子供の喧嘩なら、いくらでも見たことがある。

だけどそれは両者とも、複数だとしても、皆黒い髪をしていなかった。

黒い髪をしている者は、他所者だった。



あの子供は、その余所者になっていただろうに。

ああ、よかった、と。

村に連れて行かなくても、村にいる環境は整っている、と。

村以外でも、あの子供は楽しく普通に、幸せに生きているのだと。

村じゃなくても、大丈夫なんだと。

この場所なら、大丈夫なのだと。



安堵して、嬉しかったのだ。

どうやら私自身、心のどこかでこの灰色になった髪にコンプレックスを持っていたらしいと今更気が付く。

クーデターを口八丁手八丁で止めた手前、そんなそぶりは見せられなかったのが大本の原因だろう。

10数年抱え込んできた小さな重石を落っことすと、ずいぶんと心が軽くなった。



目立ってしまうからとずっと被っていた傘を外せば、青空が広がっていた。


――――ところで。

さっさと帰ろうとしたところをうっかりぽろぽろ泣いてしまい、ばったりあの人物に見つかってしまうのは後の話だった。


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あきゅろす。
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