小連載
3
雑誌を片手にヤコは独り言を言う。
手に持つのは、ちっとばかし大人の月刊誌だ。
「芸術家、絵石家氏の新しい作品が発見・・・・・・」
「喰えん物など興味は無い」
「心が満たされるんだよ」
色物の写真と一緒に載せられているあたり一般大衆からの評価は低くなってしまっているのかもしれないけれど、ヤコは彼の作る作品が好きだ。
薄暗い雰囲気も惹かれる所はあるが、一番心奪われるのは途中から作風の変わった彼の肖像画だ。
「ネウロはこーゆーのに興味は湧かないの?」
「我輩の興味のベクトルは謎のみだ」
「水着のおねーさんの写真には?」
「無い」
「ふーん」
ヤコとて、こういった写真にも漫画にも美人だなーお肌綺麗だなー胸大きいなーぐらいしか感想も出せないのだが。
つまりは特に興味はないので、興味のあるページのみを切り取って残りは公園のゴミ箱に入れてしまうつもりだ。
だが公園にたどり着き、目的のゴミ箱の傍に面白い相手を見つけたので後ろ手にそれを持って近づく。
「笹塚さん。笹塚さんはこーゆーのに興味は?」
「そんな如何わしい雑誌読むんじゃないよヤコちゃん」
「心が満たされるんですよ。美術作品って」
「・・・美術作品?」
「私、同姓の水着写真なんざ興味ないですよ」
ヤコはけらりと笑いながら、びりびりと雑誌を破いて保存用ページを残しゴミ箱に放り込む。
「で、私のお父さんの事件の結論が自殺で終ったって、どういうことなんですかねえ」
桂木ヤコの解いた最初の事件から、一ヶ月が経っていた。
−−−−
もう過ぎたことではあるが、まあいろいろと気に喰わないことが起こったのだ。
最初から話すと、ファミレスでの事件以来、警察は捜査に来なくなったのだ。
電話を掛けたり直接会いに行ったりしたものの、別の事件があるだのなんだのと一ヶ月が経ち。
結果渡された最終捜査書は「自殺」の二文字。
声を大にして叫びたい。
包丁やらバタフライナイフやらでメッタ刺しの死体になる自殺の方法なんざどこにある。
ちなみに捜査の指揮官だった竹田刑事は事件後失踪したそうだ。
−−−−
数ある有名文学作品の中にこんな台詞がある。
『はい、お上のなさることに間違いは無いでしょうから』。
無実の罪を着せられた父親の弁護をその娘が見事な口上でする話だが、その最後には『お上のお裁き』という名の父の命を助ける代わりに娘が罰を受けるという理不尽極まりない刑が下されるのだ。
「気に入らない。打ち切りだなんて」
「・・・・・それは」
最初にそれを聞いた彼女の言葉はこうだった。
『はい、刑事さんのすることに嘘はないでしょうから。』
嘘も間違えも懲り懲りだ。
警察が自殺と決定したのなら自殺。
けど、ぶっちゃけ第三者が見れば十中八九違う見解が出る。
ヤコが何を言いたいのか、笹塚も分っていたつもりだったが、彼女の次の台詞はその予想を裏切った。
「まーそれは話しかけた理由じゃないんで、はいどうぞ。事件のヒントのプレゼントです。」
「・・・・・・あっそ」
一ヶ月の間、なにもヤコは父の事件の解決を仏壇に祈っていたわけではない。
警察の人間に顔と名前を覚えられるぐらいには警察庁の周りをうろついたし、町で刑事を見かけたらさり気なく首を突っ込んで過ごすうちに捜査の手順も新聞面の状況も読めるようになった。
当然とはいえ当然、あの魔人も付いて来たのだがそこは良い。
気が付けば、その魔人の食料の調達もかねて行動するうちに「探偵もどき」の称号も得ていたのだがそれはそれ。
とはいえ現場を荒らして回るようなことは極力避けて通っている。
ネウロとしては他人が自分をどう思おうとそんな些末事は気にする必要などないんだろうけれど、そこはゆずれない。
元々ヤコは人目を気にするたちだった。
「それじゃ、私はこれで。」
向かうは事務所もどき。
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