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小連載



食事を手伝って欲しいと言われたので首を縦に振り、共に家の外へと出る。
女子高生としては危機感の足りない軽率な行動だったかもしれない。



「謎を食べる?」

「変異種である我が輩の食糧であるエネルギーだ。」

「目的はともかく、なんで私なんかの協力が必要なわけ?」


朝のファミレス。
ヤコは注文した紅茶にミルクを入れながら尋ねた。


「謎を喰うのは我が輩。ただ貴様が謎を解いたことにして欲しいだけだ。魔界の住人は地上では人目を忍ぶ身なのだ。」


ふうん、とヤコは相槌を打ちながらカップを口につける。


「代理人として面に立て、ってか」

「手柄や名声で目立つのはマナーに反する。」

「なるほど、マナー。マナーは大切だね」



ゴクン、と。
ミルクティーを飲み干した時。


ゲボッ、と。
血を吐く音が店内に響いた。


----


サンドウィッチを食べた途端血を吐いて人が一人死んだ。
当然警察のパトカーがすぐ到着し、捜査を開始することになる。
その横でヤコは飲み終えたカップを片手に、折角たのんだドリンクバーがミルクティ一杯で終ってしまうのは勿体無かったと意地汚いことを思っていた。

事件は被害者の男性と相席していた部下が容疑者となっている。
被害者がトイレに立った間にサンドウィッチに毒を塗ったという話らしい。



「毒の入ったビンも発見されちゃったし、介入する隙なんて無い様に見えるけど」

「白々しい。すでに貴様もこのほころびを見抜いているだろう」

「一般人が割って入ったらそれだけで目立つでしょ。・・・まあ別に良いけど」



壁に背中を預けた状態から、ヤコはよいしょと体を起こしてカウンターの近くへ寄る。
そして客の連絡先を聞いて回っている、一応顔見知りの刑事に声をかけた。


「あれ、ヤコちゃん?」

「えーと、おはようございます。すいませんが席に生徒手帳落としたっぽいので取りに行っていいですか」

「別に良いけど。」

「ども」



高校の生徒手帳をわざとソファーの隙間に押し込んでおき、それを取りにいく。
被害者の隣の席だったので容易に近づけなかったと思ったらしい刑事の目のあるうちに、と。
ヤコはソファーの隙間に手を突っ込んで生徒手帳と一緒にとあるものを引っ張り出した。



「あっれー?生徒手帳を探していたら変なものを見つけたちゃったみたいですよ。ほら」

「!?」



片手に生徒手帳、反対の手にはちいさなマニキュアのビンのようなもの。



「これって、さっきの毒のビンとそっくり一緒じゃあないですか。ねえ笹塚さん」

「・・・・・・本当だ・・・・・・」

「もしかして他の席にもあったりして。そう思いません?」



笹塚と呼んだ刑事は無言で隣のソファーの隙間に手を突っ込み、同じく毒のビンを見つけて唖然とした。
ヤコはテストで良い点を取った時の様ににこりと笑い、小さく呟いた。
一つ見つかれば他は調べない。



「・・・・・・」

「ということは、毒のビンの無い席が犯人の席だったりして?」

「・・・・・・全部の席のソファーを調べろ、客には触らせるな」



年配の刑事のほうの指示に、見張りについていた制服警官やらがソファーを調べ始めた。
ヤコは喫煙席の方へ目を向けた。



「禁煙席とここのソファーだけ、毒のビンがありません」

「・・・っても、ここはガイ者の席からは遠い・・・この席に座っていたのは?」

「わ、私ですけど・・・・・・」

「すみませんがバック拝見しますよ」



次に容疑が向けられた女性はバックを差し出す。
しかし中には化粧品など以外に何も入っていない。



「まー無理だよね。席から遠いし」

「だが待てよ、ややこしいことになってきたぞ」

「もう一度ほかの場所も探しますか」

「ここにありますよ」



コンコン、と靴のつま先でトイレ脇のゴミ箱をつついてヤコが言った。
さっきまで入っていなかったはずの色つきのビニール袋。
中身はやっぱ毒かな、とヤコは頭の中で思う。



「毒を塗ったのは、やっぱ推理小説っぽくトイレの内側のドアノブとか?ですよねおねーさん」

「なによ。たまたまこの席に座ってたからって犯人扱いされちゃたまんないわよ」



ヤコは少し黙り。
そして容疑者の女性に向けて、少し怒気を混ぜて言う。
魔人はにやにやと笑いながらそれを見ていた。



「こっちはさっさと家に帰りたいんですよ、それにこの刑事さんにはお父さんの事件を解決してもらわなきゃならないって言うのに」

「し、知らないわよ、だって私は犯人じゃないわ」

「それこそ知らない。さっさと自供なりなんなりしてくださいよ。」

「ちょっと、ヤコちゃん」



片手に持ったままの毒のビンをカウンターに置き、ヤコは問題の席へと近づいて指を刺す。



「ここ喫煙席ですよね。なのになんで一本も吸ってないんです?つか貴女それウィッグ?ダテ眼鏡は邪魔になるからはずしたらどうです?」

「!」

「なるほど、犯人が被害者と顔見知りならば変装も必要となりますね」



いつの間にか容疑者の女性に近づいていた魔人がひょいとその髪と眼鏡を奪い取る。
バサッとウィッグと眼鏡を外された素顔は短い黒髪の女性だった。



「吸わないのに喫煙席をわざわざ選んで座ったのはそこが一番トイレから近いから。ドアノブに毒を仕込むにも都合が良いですね」

「というかゴミ箱のこれだってソファーの仕掛けがばれるとは思っていなかったあなたが慌てて隠したもの。指紋なり髪の毛なり何なりと証拠があるはずですよね」



ヤコは彼女のバックの中にあったハンカチとゴミ箱に入っていた布とビニール袋を机に置く。

二つはそっくり同じ色と材質のものだった。



「従業員の方に記憶をたどってもらえばどのくらいの頻度で貴女が来店していたか、どの席に座っていたか裏づけを取れますね」

「それに、被害者と知り合いなら−−」



机に転がる女性の携帯電話を拝借し、ヤコはメール欄の中からあるアドレスを選択して電話をかけた。

途端に鳴るのは恋愛ものの着メロ。

それは被害者の携帯電話から鳴っていた。



「アドレスぐらい、登録しているもんね。」



そのコール音に、女性が席に崩れ落ちてドサッと音がした。




「てなわけで、貴女が犯人だ」



――残念だったね。せっかく長い時間をかけて準備して、条件が揃うまで息を潜めて待っていたのに

ヤコは小さく囁いた。


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あきゅろす。
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