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小連載
成り代わり1

ヤコ、落ち着いて聞いてね。
お父さんが、殺されたの。



それを思い出したのは、葬式の線香の香りがきっかけだったように思う。
思い出すはずの無かったそれ。

言ってしまえば、つまり前世の記憶だ。

思い出した後に続くのは、腹に穴が開いたような飢餓感。
なのに湧かない食欲。

違うのに。
弥子は、そんな空腹を覚えるような人間じゃあ無いはずだ。

代わりに増えたのは睡眠欲だ。
夢の世界は、悲しみと混乱とを整理するために大きく広がった。
睡眠は記憶の整理を。
夢はそれだけではなく、私に未来まで見せた。



「何故泣いているのだ?」

「謎が解けたがら嬉しいんだよ」



幻聴に応えてしまったのは反射でしかなかった。


殺された父の葬式の夜、ぐっすりと眠って早い時間に起床して。
仏壇に挨拶でもしておこうかと畳に座り込んで。

全部思い出したという現実をどうしたものかと途方に暮れたそんな朝。
現実は朝日が登る早朝だというのに頭のなかはひるにも夜にもなりきれない夕焼け色だ。

父を殺した犯人が夢の中で分かった、なんて。
いや、父を殺す人物を生まれる前から知っていた、なんて。

私の名前は桂木ヤコ。
私立高校に通う女子高生だったりする。
ついさっき前世を思い出したりしたので、記憶はその倍ほどあるのだが。

前世の世界で目にした漫画の世界と現世の世界がそっくりだったりもするわけだが、私は混乱はしていなかった。
ただなぜ今、と思うばかりだ。
あと数日前に思い出していたならば、父を失う未来を回避できたかもしれないのにと、後悔のような感情が渦巻いていた。
それも1日を泥のように眠って起きた時にはきれいさっぱり消えてしまったのだが。



「日常に戻るためのプロセス、ってやつかなあ?」



一生謎かもしんない。
久しぶりに少し笑った。



「とりあえず、はじめまして魔人さん」

「至近距離に美味しそうな謎があるのだぞ?挨拶などしていられるか」


青いスーツに黄色の髪、変わった髪飾りに見た目は整った顔立ち。
長い手足と高い身長、どこを向いているのか判らない瞳。



「至近距離に笑顔の魔人がいても生憎混乱しないんでね。それと人間は名乗って貰わないと解らないんだよ」

「おおそうか。しかしすでにわかっているような様子だが?」

「マナーは大切だよ。私はヤコ。桂木ヤコだけど、おたくは?」



脳噛ネウロ。
謎を喰って生きる魔界の生物は、明らかに人間ではなかった。


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