小連載
2
よくある転生トリップをして約20年ほどの年月をこの千夜一夜な世界で生きて今日があるわけだがなかなか楽しいのでそれは良い。
・・・詳しく話せば学校の帰り道に車に撥ねられ気が付いたら知らない女性の腕の中でおぎゃあと泣いていたのだ。
紅葉のような小さな赤子の手に夢ではないらしいと早々に現実を認めてはみたものの何をするでなくあまり裕福とは言えない母子家庭で育つこと数年。
悪ガキと混じってあちこち探検すると入ってくる情報に驚くこと数回。
耳に入ってくるどこかで聞いた事のあるの国名や人物の名前。
魔法が生きる漫画の中で出てきたものだと納得すると同時に頭を抱えどうしろってんだと呟いたのは良い思い出だ。
そんな事もあったのだが、貿易商人だった父親にくっついて海を渡ったりするうちに親孝行だと思ってとにかく仕事を頑張った。
今では自分の船を立派に持って事業を起こしているあたり自分は頑張ったと思ってる。
あっちこっちの国を見て回っているとそこで増えるのが顔見知りや友達の数なのだが、イアーゴはその中でも人の繋がりが多いほうだと自負している。
そのおかげかそれとも前世が女だったせいなのか噂話に強くもなった。
そんな事を頭の端っこで考えながら、イアーゴは一つの航海を終えた船から降りる。
霧の掛かった町を見渡しながら呟けば近づいてきた男の声に返事を返す。
「久しぶりだなバルバッド王国。ちょっと露店が増えたか?」
「おかげさまで貿易国として栄えてますよー旦那様」
「どっから湧いてきた怪しい行商人A」
にたにたと笑うのはジャラジャラ装飾品を身につけた眼帯の男。
バルバッドに来るたび結構な量の商品を買い付けに来てくれる所詮お得意様で、気兼ねなく話し込める人間の一人でもあったりもする。
しかし胡散臭さがどうあっても拭えない風貌に、イアーゴはいつもお前それでも行商人かとツッコミを入れたくなるのを押さえているのだが。
「テメーの船は悔しいことに良い商品を持ってきてくれるからな、いの一番に到着してやったんだろーが」
「そりゃどうも。だがお前に渡せる商品はあんま無いぞ、これはシンドリアに行く船だ」
「・・・相変わらず愛想無いなテメー」
「お前に限って愛想なんか必要無いだろ。ほらこれこれでこの値段でどうだ」
「・・・相変わらず低価で良い品ばっかですねーテメーの商品は」
「そりゃどーも。じゃあまた後で引取りに来てくれ」
口調はきついがお互いテンポの良い会話を楽しみつつ、ふと自分を呼ぶ声に話を切り上げる。
くるりと背を向け、船の甲板に上がれば部下の一人に声をかけられた。
「船長、シンドリアから使者が来てます。到着を早めてくれって話らしいですよ」
「じゃあ2泊したら出発するからそういうことで。ホテルの予約は頼んだぞ」
「え、2泊ですか」
「なるべくニーズに応えねばならんだろう」
「だからって2泊は短すぎますよ!」
子供の駄々のような言い様にこいつもまだ若いな、とどこか向こうを見る。
「俺だって美味しい物食べたいのに!」
「それが本音か。諦めろ。シンドリアで食え」
「バター焼き楽しみにしてたのにー!」
のんびり聞き流しながら、イアーゴは柱にもたれてふうと溜め息を一つ。
「シンドリアの帰りにいつもより3日長く泊まって行ってやる予定だ。そんなに言うなら今から予約でもしておけ」
「・・・船長!大好き!愛してます!」
「さっさと荷物を運べや下僕」
まがうことなき子供のリアクションにもう一つ溜め息を付いた。
「このあたりの海域近くは海賊が増えてきてるって話しだし、そろそろ使用を止めた方が良いかなぁ」
「だがよ船長さん?このルートを変えたら南海生物の巣を避けて倍の距離はある海路を進まなきゃならねーぞ」
「・・・いっそ軍艦のお古をどっかからか徴収させてもらおうかなぁー・・・・・・」
「何言ってやがんだこの馬鹿船長」
「ハッ。こういうときこそお得意様の国の恩恵に肖るんだよ」
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