小連載
1
望んだ結末ではなかったけれど、なんてよくある話で。
それでも悔いは無いはずだ、と静かに呟いて。
俺はゆっくり目を閉じた。
−−−−
自転車で坂道を下れば田圃の稲穂の香りを全身に感じるぐらいには田舎で育った。
海の無い盆地の気候は変わりやすく生温い曇り空と小雨がここ一週間続いていたんだと思えば分かりやすいだろうか。
雷が落っこちて人が感電死したという話もたまに出るぐらいには山の中だった。
『・・・・・・ねぇ明日一緒にさ、二人でご飯食べに行こう』
『・・・・・・明日・・・うん、予定は無いよ。一緒に行こっか』
咲きかけの桜の木が立ち並ぶ川を通れば車の流れで出来上がった大河があった。
『―――。××ッ!危ないッ!!』
−−−
ああこれは夢だ。
とても懐かしい夢。
それに気が付いて目を開けると目に入ってくるのは、夢の中で見ていた車が通るアスファルトと白線の地面ではなく、ラクダの足跡と車輪の痕が残る土と砂の地面。
今の現実の景色に感覚を沿わせて自分が何をしていたのかをはてさてと反芻する。
(転寝をしてしまっていたのか)
首の骨を鳴らしながら立ち上がり、欠伸する。
猫のように伸びをすれば南の国らしい強烈な太陽の光が肌を打つ。
海の香りを運ぶ一様でない風が髪を撫でて鼻腔をくすぐる。
聞こえてくるのは人々の声と波の音。
すべていつもの事だと分かっているがあの夢を見たすぐ後だとどこか現実味が無い。
そんな風にイアーゴは心の中で苦笑してみる。
ざあ、と風が吹く。
小さな砂粒が飛んで行くのを目の端に捕らえながら、自分にかけられる声に振り返った。
「せーんちょう!船長ー!」
「船長!」
「ん?」
「イアーゴさーん、荷物積め終わりましたー!いつでも出航できますよー!」
「ああ、分かった。全員別れを済ませて乗り込んでおけ」
これが今の日常だ。
港を行き来する船に乗り国々を回る危険ながらも楽しい日々を生きる。
「さて、最初の行き先はどこだったかな」
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