小連載
1
ここ何処だろう―――
そう思いながら空を見上げること9回目。
地名は傍にある立て看板に表記されているらしいのだが、いかんせん文字が読めない上に地名がわかったとしても地図上のどのあたりなのかも想像付かないゆえの事態だ。
こればっかりは仕方がないと頭を振って真咲は肩に掛けた学生鞄の中から飴を取り出し口に含む。
学校の昼休みに友達たちとつまもうと思い鞄に押し込んであった菓子類は徐々に数を減らしている。
大事に食べなくてはいけないなぁ、と考えつつも飴を噛み砕くクセはそうそう無くならないものであって、ガリッとやってしまう。
「あー・・・、どうしろっていうんだ」
誰とも無しに呟いてみる。
周りには誰もいない。
学校に遅刻しそうで走っていたら突然雷に打たれたかのような衝撃に見舞われ気がつけば知らない場所。
どこかで見たことのある軍服を着たどこかで見たことのある顔の男達が集まる部屋の中から飛び出し、周りを見渡せば知らない町並み。
軽いパニックに陥り人気の少ない所を探し走り回ればもうどっちから来たのかわからない。
そうして一度座り込んでみて落ち着いたところで思い返せば冷静になってくる。
あの軍服とか手袋、見たことがあると思ったらそうだあれだ、鋼錬。
もっと考えたらあの赤いコートに金髪、それと鎧もそれそのものだった。
そして今現在の自分の状況が俗に言う異世界トリップというそれだという考えに至り、頭を抱え始めた。
町並みを走り抜けるときに耳に入ってきた音声の中に日本語は無かった。
つまりは言葉まったく通じない。
鋼錬って英語圏だったか。
そしてなんだか体がおかしい。
足がまったく疲れていないどころか跳躍一つで屋根の上を走れそうだ。
しかも臭いや音に敏感になっているらしく、ずっと遠くの物音がクリアに聞こえてくる。
まさかトリップした反動で変な後付が起こったのか、それとも重力とかが違うのか。
「日本語通じる人はいないのか・・・・・・?」
答えてくれる声は無かった。
当たり前か、と首を振ってふらふらと立ち上がる。
立て看板を良く見ると筆記体の漢字っぽいものが書かれていることに気がつく。
東の砂漠を越えれば中国っぽい国があったんだっけそういえば。
同じ漢字だとはいえ中国語が解るはずも無く、結局がくりと落ち込む。
漫画の作者は日本人だったはずだ。
どっかにいないのか、日本語話せる人。
早々簡単に元の世界へ帰れるとは思えないわけであり、なんとなく錬金術師の手を借りなくては帰れなさそうな予感がする。
そうなればこの世界でどうにか生活しなくてはならないわけであって。
強いては屋根のある寝床と食事、衣食住を確保したいわけであって。
言葉もわからないお金も持ってない。
この足の速さを活用してかっぱらいでもしろってか。やだよ犯罪は。
「・・・・・・ホームレスじゃないかこれじゃぁ」
駅で歌でも歌っていればお金もらえるだろうか。
乞食って儲かるって言うし。
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