小連載
☆
「佐倉檸檬、だな」
「(え、この人ペルソナ?)」
檸檬には探しているものがあった。
学園に来ることになったら必ず訪れようと考えていた場所。
学園に入学するつもりなど無かったのでもしあるのならば、のつもりだったが現在はそのもしもが現実となっているので早々に受け入れ、それを探すことに専念していた。
自分の繋がり(ルーツ)については、漫画で読んでいた物語と生後一年少しほどの記憶しかない。
というかおなかに子供がいる、しかも妊娠三ヶ月までは動き回るのは母体にも子供にも生命的な意味でよろしくないはずだがよくがんばったものだ。
生まれて数日の子供を抱いて逃げ回るのも大変恐ろしいのでやっては欲しくなかった。
ストレスで呼吸は苦しいしあっという間におなかは空くしで少しやさぐされた記憶もあるがそれは今はいい。
探しているのは、行平泉水の慰霊碑だ。
学園の敷地内のどこかに存在することは確信しているので、探していれば見つかるだろう。
馬鹿みたいに広いこの学園の地図(最初見たときは遊園地のパンフレットかと思った)を広げてみれば、確かに墓地は存在していた。
だがそこへ行くにはどういった理由をつけようかといういいわけも檸檬の頭の中で捜索中だったりする。
慰霊碑を探すのは、線香ぐらいはあげにいきたいという義務感が大本だ。
長男だと言う事ではないが、会ったことの無い父親に報告ぐらいはしたいのだ。
妹を守るということ。
この学園を笑って卒業すること。
いつかはと願う母親との再会。
どこかで妹と母と三人で、一緒に暮らしたいという夢。
檸檬にとって妹はなにより大切な存在だ。
愛おしいし、幸せを切に願っている。
この世に何の因果か生れ落ちたその時。
自分が突然失った日常に呆然としていた時、傍に居たのが新しい母と、彼女だった。
双子の妹。
栗色の無垢な瞳がいつも横にあった。
若く不安定な母親から不器用に、しかし大事に大事に与えられる愛情。
それに戸惑いながらも、檸檬と名づけられたこどもはゆっくりゆっくり世界に順応して、そして、この世界での自分の在り方を確立していったのだ。
支えたいのだ。
だから二人の幸せを願うのだ。
父親の代わりとはいかない。
だがすこしでも、その時間の分だけでも、二人の傍に居たい。
そして守りたいと思い始めたのが、母と妹の幸せであり安全でありその笑顔。
逃げ怯え走り回る日々に神経をすり減らしていた母親。
その女性と、妹と、そして自分とで。
宣言するつもりなのだ。
せずにはいられないのだ。
父親と言う存在はよく分からない。
だがとても大きな存在だとはわかる。
生徒に好かれる良き教師であったということは知っている。
母親はそれを語りきかせてくれた。
だが、夫としてはどうだろう?父親としてはどうだろう?
ぶっちゃけ、良いとは言えない。
事実婚。
父親としてに限っては、そもそも生まれる前に居なくなってしまった。
それに関しては、少々の恨みがある。
理不尽で的外れだとしても、やはり拭えないそれ。
彼が死んでから、母親は子供の前ですら笑顔になれなかった。
自分と妹は、じーちゃんが代わりをしてくれたが、父親と言うものを知らない。
恨みつらみ、それらをぶちまけてやろうと墓を探せども、見つからない。
というかその場所へ向かえない。
ハアとため息をこぼす。
檸檬は墓の場所を知っている。
知ってはいるが、行くための理由をもっていない。
まさか学園始まって以来の大犯罪者の息子ですなんて名乗り出れるわけが無い。
というか、自分は知らない、で通さなくてはいけないのだ。
知っているとでも少しでも勘ぐられれば、その時は双子の妹にまで何らかの形で不幸が起こる。
よって墓の場所へどうやって行こうかとうろうろと校庭をうろついていたらなぜかまさかの危険能力系クラスの担任に遭遇。
えー、なんでー。
(このあと適当に迷ったとか言い訳してついでに危力系の教室を教えてもらう)
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