小連載
☆
檸檬の双子の妹、佐倉蜜柑は机に突っ伏してもんもんと考え込んでいた。
――さきほど自分の兄に鬼のような形相で説教された記憶があるのだが、きっとあれは夢だったのだそうに違いない。
つまるところ、現実逃避というか現実拒絶の真っ最中なのだ。
(そうや、そうにちがいないっ。きっとあれは幻覚やったんや、この学園でならありえるっ)
蜜柑にとって檸檬という名の双子の兄は落ち着きの無い自分が道を踏み外すたび手を引いてくれる優しい優しい大好きな兄なのだった。
お互い二卵性の双子らしくあまり顔は似ていない、大好きな兄。
じいちゃんが言うには蜜柑は母親似なので、きっと檸檬はお父さん似なのだろうと思っている。
転んで怪我をすれば抱き上げてくれて、ポケットから絆創膏を取り出してそれを傷に貼って「いたいいたいのとんでいけー」をしてくれるのだ。
蛍と喧嘩をして拗ねていれば頭を撫でてくれて、寝るまで話を聞いてくれる。
小さな頃にお盆の夜に肝試しをして皆とはぐれ、一人ぼっちで怖くて泣いていたときに、じいちゃんよりも早く一番に探して見つけてくれたときから、兄なら自分を必ず見つけて迎えに来てくれるのだと信じている。
その、兄が。
あんなヤクザみたいにドスのきいた声で説教するなんてありえない。
ありえないのだ。
見たことないし見たくない。
10年一緒に育ってきて、兄が本気でキレとと思っていた場面を見たことはあるがそれはあの比ではなかった。
そう、檸檬がこの学園に来ているはずがない。
そう結論付けた蜜柑は、教師が新しい転入生が来ましたという声で我に返った。
そしてどんな子が来るのだろうと思い直す。
自分が転入して約二週間。
連続した季節はずれのそんな人物は誰だろうと教室の扉を見る。
「入ってきてねー」
「・・・・・・はい」
そして、扉が開き、金髪の頭の男の子が入って来た。
ルカという子も金髪だがそれよりずっと長い髪を高い位置でポニーテールに縛っている。
あ、と喉から声が出た。
柔らかそうな空気を纏った金色の目が教室の中を見据える。
この教室には少ないきちんと背筋を伸ばした男子生徒がそこにいた。
「――なんでにいちゃんがここにおんのっ!!?」
「静かにしなさい、蜜柑」
「・・・そこにいる佐倉蜜柑の兄の、佐倉檸檬です。」
「檸檬君は強い声色のアリスを持っているので階級は転入からダブルですv妹の蜜柑ちゃんと二週間遅れての転入だけど、皆仲良くね」
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