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小連載



「アホ妹」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさーいッー!!」



小学校5年生とは思えないオーラを擦り巻きながら呟かれた一言。

そんな少年の前では、半泣き+音速震動+冷や汗ダラダラどころかボタボタな少女が一人ひたすらに謝っていた。

土下座まではさせないのが少年の優しさである。



少年は考える。

まったくこれで悪気が無かったとほざくこの妹は幼稚園からの再教育が必要なのではないだろうか。

もう小学校の高学年だというのに。


太陽の光を反射する金色に近い茶色の長い髪。

ほぼ新品の、指定制服の赤と黒のチェック柄のズボンに黒いセーターをきちんと着ている。

名前は佐倉檸檬。

いろいろとワケありで、アホな妹に頭を悩ませる兄貴である。



その前に座り込むのは、いろいろと対照的なツインテールの少女、蜜柑。

彼の妹だ。

両サイドで可愛いリボンで纏められた茶色の髪は毛先のほうがゆるくウェーブしている。

赤いチェックのスカートはかなり短いと檸檬は思う。

周りに居る同学年の女子生徒たちも同じようなものだが、やっぱり短いと思う。

自分が女子高生をやっていた時もここまで元々が短いのも少ない。



・・・女子高生をやっていた、というが彼は正真正銘の10歳の少年だ。

前世で、のはなしである。

その話はまたどこかで。



話を戻す。

彼とその妹はアリス学園という妙な名前の学校に最近転入してきた。

妹はどうだか知らないが、兄のほうはまったくもってこの入学は遠慮したいものなのだ。

自分たちの父親と母親に、その子供達にどんな仕打ちをし、これからするであろうことを重々承知してきたのだ。



兄は妹を守らなくてはいけない。

どんなアホな妹でもたったひとりの兄弟であり双子の片割れが大切でないはずが無い。

そのためには『この学園に見つからないこと』『ここへ来ないこと』が彼にとって最重要の禁則事項だったのだ。

なのに、この妹は。



「はっ。このハンパな時期に転校とか、手続きとかどのぐらい大変だったと思ってやがったんだ。

好きなことをするためにはなぁ、楽しいことばっかじゃできねぇんだ。

いきなり学園の教師が村に来て『転校手続きオネガイしたいんです』とかほざきやがっときにゃぁ顎を蹴り飛ばしかけたぜ?そいつの。

そもそも『オネガイ』でなく『確定』だったからな。ありゃぁ。

ヘソクリ持ってかれて怒り狂ったじいちゃんを窘めるのも、孫がいなくなってどことも知れん学校に入学するなんていきなり知らされたじいちゃんを宥めるのも誰の仕事だと思ってんだ?

あ?蜜柑?

この学園は入学して半年以上面会も手紙のやり取りも遮断されるって事ぐらい事前に知っとけよな。

校則違反しまくってんだろ?これからもするつもりだろ?なら連絡を先によこせ。

まだ言いたりない事はあるが蜜柑、とりあえずじいさんに謝れ。俺にも全力で謝れ」



後ろポケットに手を突っ込み、斜め前に首を突き出した格好の檸檬。

一点を見つめたまま微動だにしない眼球、細められた目、小学生とは思えない低音が流れ続ける薄く開かれたままの唇。

どっかのヤクザにしか見えない。

あれだ、いつもは喧嘩の仲裁をしていた人間がブチ切れると周りがどう対応して良いのかわからないかんじだ。

一週間ほど離れていた兄の尋常でない怒りっぷりに涙腺が決壊したアホ妹もとい蜜柑は、



「うわああああぁぁぁぁん蛍ぅぅ!にいちゃんが怖いぃぃぃぃぃーーーっていつのまにそんな遠くへ!?蛍の裏切り者ーーッ」

「オイこら蜜柑話の途中だ逃げるな」

「ひいいいいぃぃごめんなさいぃぃーー」



蛍と呼ばれた蜜柑の友達はすでに危機を察知して教室の隅の方へ移動しカニ味噌なんぞを食べている。

彼女お手製のバリゲードのオプションつきである。


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