小連載
法螺貝inバスケ2
小学校にあがると同時、正しい姿勢や礼儀作法を身につけさせたいと思ったらしい両親は、娘を習い事に放り込んだ。
ピアノにバレエ、新体操、少女漫画世代のお母さんなら一度はあこがれる世界に自分の子供を、という考え方は特に虐待だともなんとも思わない。
子供が習い事をやめたいと泣くのに無理やり続けさせる場合はちょっといろいろと問題もあるかもしれないが、ただ練習が嫌だからと駄々をこねる子供を叱るのは必要なのでそこは見分けを付けよう。
それに実際、こういった幼い頃からの教養は一生身に付き、何らかの形で返ってくるのだ。
身体が柔らかければ怪我もしにくいし、姿勢が良ければ印象も良い、字がきれいな人はそれだけで尊敬を得る。
自分には何が向いているのか、あれこれと探すのも楽しい。
好きかどうかも大事だが、どうせなら上手くできることも特技として持っておきたい。
直ぐに思いついたのがスポーツだ。
スポーツはできて困る事は無いし平均以上の体力はあった方が格段に生きやすい。
そんなことを考えながら、とりあえずは体が柔らかいうちにと毎日ストレッチにいそしむのである。
ちびっこの身体は柔軟なので一か月もすれば180度ぐらい苦も無く開脚できるようになる。
バレエの先生はいつもにこにこ美人だし、新体操は小学校の体育館を借りて行っているクラブだから友人も増え、今のところ楽しいお稽古生活だ。
呑み込みが早いと褒められるのも素直にうれしいし、友達にうぐいすちゃんすごーい!と言われるものまんざらでもない。
お母さんが娘の成長に嬉しそうなのも感じ取れるし、これは頑張るしかないじゃないか。
「そうだ、佐崎さんの中学生の息子さんが全国大会に出るんですってね。」
「帝光中学ですよね。あそこ前から有名な私立だけど、最近運動部が――」
ん?
‐‐‐‐
どうやら今回の世界は某バヌケ漫画が舞台だったようですまる。
そんな割と重要なことに産まれて10年経ってやっと気が付いたわけだがまあしゃーない。
鶯の日々の生活は基本平日の小学校とお稽古事と友達との約束で埋まっている。
この家は新聞をとってないし、休日のTVはもっぱら母親が録画した朝ドラと昼ドラの再生に使われてるため、ニュース番組もほとんど見ない。
趣味は畑仕事と日曜大工な父親はスポーツ雑誌を買うこともない。
ついでに言うと帝光中学は私立であるらしく、学費もかかるようなので平凡な公立小学校に通う鶯の友人たちの兄や姉の話でも出てこなかった名前だ。
一応、あと数年すれば中学お受験の話題も上がるはずなので、塾なりなんなりで聞いたとは思うけれど。
ていうか一人、それっぽい同級生がいたじゃないか!
どうして10年も気が付かなかったんだ……。
(あ、でも小学校で配られた校区地図なら載ってるかな)
ぱっと思い浮かんだそれに従い、電話帳の隣に置かれた母親が連絡網やら成績表やらをまとめたファイルを取り出す。
校区内にはなかったので、地域の避難場所の書かれた地図を広げてみれば、隣の小学校や中学校に混ざって帝光中学の名前があった。
都内にもなれば一学区のなかに複数の中学校があっても珍しくはない。
(割と近い…けど、うちはお受験しないだろうしなあ)
そうである。
こうしてわざわざ地図を引っ張り出したところだが、鶯は帝光中学に入学することはまずない。
お稽古はいくつか掛け持ちしているが、塾にも通っていないし、この前弟が生まれたし、経済状況を考えても私立に通うメリットも、両親が望んでいる様子も無いのだ。
十中八九、今通っている小学校の大半の卒業生が通う中学に進むだろう。
(灰崎君は、お受験組なのか・・・・・)
小学校、同じクラスの男の子の一人の顔を思い浮かべる。
アッシュグレーの髪に同色の瞳、高い身長の男の子。
(運動部は基本夜遅いし土日も練習だから、あんまり会えなくなるだろなー。仲良くできるの今のうちだけかー……)
鶯はどちらかといえば外遊びが好きな子だ。
少なくとも運動する小学生の身体は疲れを知らず体力は底なし、元気が有り余っている。
小学生のうちはまだまだ男女関係なく一緒に遊びまわれる。
体力に差も無いしむしろ口の回る女子の方が強い場合も多い。
鶯は何度も繰り返した人生の中で毎回その場その場の自分の性別に合った行動を心掛けているが、やはり素ではない。
正直、今10歳前後の環境が一番楽であるのだ。
多少男勝りな女の子でも許される、年齢に見合わない行動をしてもマセているといわれる程度。
つまりは鶯は今をのびのびと満喫していた。
そんな中でも小学校でしょっちゅう一緒に遊ぶのが運動場を駆け回る男の子たちだ。
サッカーにしろドッチにしろ人が多い方が盛り上がる。
楽しいのが一番であるので、女だから仲間に入れてやんねーよ、なんて言い出すこともない。
彼らが好きだ。
そのうち男女を意識してなんとなく絡みづらくなるんだろうなー、なんて思いつつも彼らは友達だ。
トータルで数千年を生きたような鶯でも、10年しか生きていない子供とちゃんと友情は構築できるのだ。
結論として。
まあ今が楽しければまーいーや。
後のことは、その時が来たら考えよう。
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