小連載
法螺貝inバスケ
夢主:豆塚鴬(まめづかうぐいす)
女
キセキの世代とは違う中学
とある人物と幼馴染ポジ
パラ見知識でKSKのトンデモな技を頭の中でイメージしたら「ん?もーちょいこここーやったらよくね?」「こーしたらダメージ回避できんじゃね?」というシロート見解が次々発足したのが悪い。かたよった解剖学知識も悪い。
−−−−
今度は転生したような状態になった。
記憶を持ったまま。
なにがなんだかわからないが、今度は状況が状況だった。
(まさか流産しかけの妊婦の腹に引っ張られるとは思わなかった・・・・・・)
数百、数千と憑依を繰り返したが、生まれるところからスタートしたのは初めてだ。
水泳の授業で色が少し茶色くなった長い髪を一つに束ね、豆塚鶯はひょい、とボールを手に取った。
13年。
そろそろ魂の乖離を感じ始めても良い時期だが、今のところそんな前兆は感じていない。
中学二年生。
お年頃になってきたクラスメイトとおしゃべりに花を咲かせ、チームメイトたちと部活に明け暮れる日々を送っている。
最近は隣校の男子バスケ部がやばいらしいが、一度も観に行ったことは無い。
イケメンぞろいだとかなんだとかであるが、基本として中学男子のあれこれに中学女子は興味を抱かない。同じ競技をする体育会系ならなおさら。お互いスポーツに青春を捧げる体質で、ついでに年上にあこがれる時期だ。
「何人か知り合いがいるって子はいるよね。どうにか見学に行けないかな」
「おお、うちの男バスのマネちゃんは優秀な」
「イケメンがいるって話も楽しみだけど、やっぱそのうち練習試合も地域大会でも当たる学校だしね!先輩と行ってくるんだ」
「ついでにデートが目的か」
「イイ女はたくさんの用事を上手にまとめることができる賢い女性のことを言うのよ」
「はー素敵素敵。」
「……ウグイスはもうちょい女バスのこと以外にも興味を持った方がいいと思うのだけれど」
「私は多趣味な方だと思うけど?絵も描くし音楽好きよ」
「女の子らしい趣味を持ちなさいって言ってるの!鉛筆片手に何時間も紙コップやら煉瓦やら描くよりも外で花でも描きなさいよ、上手いんだから」
「料理はできる」
「あんたが女子力が高いことぐらい知ってますー!和食が得意料理で刺繍もできてお菓子も作れるってなにそれ漫画しかもダンスやってて女バスのレギュラー射止めるとか」
「小さいころからちょっと興味持つたび親がいろいろさせてくれたんだよ。」
駅のホームだった。
階段から落下した女性。
転がり落ちる身体にヒヤッとしたが、女性は意識ははっきりしているようで、ホームにいた乗客に声をかけられすぐに起き上がった。しかし青ざめてお腹に手を当てている。
怪我はないですかと駆け寄った駅員に、慌てて救急車を呼んでくれと声を上げた。
駅員も女性を助け起こした人々も何を大げさな、という顔になるが、はっと鞄を見て血相を変える。
広めの口の肩掛けかばんには「おなかにあかちゃんがいます」のマークがついていた。
階段から落ちてしまった女性は、妊婦だった。
すぐさま無線で連絡をとる駅員。
近くにいた年配の女性がガタガタと震え始めた女性の背中を撫でてやり始める。
何かできないかと騒めく周囲。
中には持っていたブランケットやタオルを近くのベンチに敷き、こっちに座ってくださいと言う学生も現れた。
それをただ見ている浮幽霊の法等も、何もできないなりに女性のお腹の命に対しどうか無事でいてくれと祈っていた。
しかし思ったようにいかない現実とはなんと理不尽なのだろうか。
その女性のお腹に、引っ張られた。
まさか、と血の気が引く思いをしながらも抵抗したが、まだこの世に生まれてすらいない細胞に宿る魄は思った以上に、ずいぶんと強かった。
いきなり引っ張られて、中に収まったのだ。
――死んだのか。
冗談じゃない、まだ小さな命がこんなにあっさりと終わってしまうなんて、と嘆いた。
それでも時間は過ぎて、約半年後、おぎゃあと生まれた。
母親の腹の中でゆらゆらと夢見心地だった間は、どうしても「生まれる」という未来に受け入れがたいものがあった。
子供は母親の腹の中に前世の記憶を置いていく、という話を聞いたことがあるせいだ。
もしかしたら、私は死ぬのかもしれない。
記憶を全部失って、魂も真っ新になって、生まれるのかもしれない。
そう考えると、ぞっとした。
いままですごした何千年という記憶。
あれを全部、失うのか。と。
しかし他人の腹の中で何ができるというのだろう。
日に日に聞こえるようになった心臓の音は力強くなり、球体を寄せたような身体は人の形を形作り、子宮の中が狭く感じられるようになっていった。
そして頭蓋骨を締め上げられる痛みと共に、気を失うようにして記憶は消えた。
数年後、記憶はふとしたことで蘇る訳だが、一度リセットされた状態で生き直す、というものも悪くはないと感じる事が出来たのはひとえに両親がすばらしく素敵な育て親だったことだろう。
赤ん坊時代は真綿にくるむように大切に、はいはいで動き回れるようになれば片時も目を離さず、初めて立てた時はそれはそれは盛大に喜んでほめてくれた。
おとうさん。おかあさん。すき。うれしい。えがお。たのしい。おなかすいた。おいしい。ねむい。しあわせ。きらい。いたい。あたたかい。きもちいい。
そんな素直な子供の自分の感情が、記憶を取り戻した長い時間に摩耗してささくれた魂と、いままで蓄積された分厚い地層のように凝り固まった意識にささやかな波紋を作った。
「うぐいすちゃん。うぐいすちゃんは、おおきくなったらなにになりたい?」
「おはなやさん!」
幼稚園生の憧れるであろう職業といえばまあ妥当だろうという答えを返しつつ、今の両親がはらはらしないですむ程度の安定が欲しいなあ、と思ったりしつつ、小学校へ入学。
普段の、というかいままでの「憑依」とでもいうべき現象の寿命は大体5〜6年だった。
最長でも10年程度。
今回はどうなるんだろう、と考える。
産まれる前の赤ん坊の身体、外気に触れていない細胞の塊。
言いようによってはまだ一人の人間として生きていない状態の肉体。
それも、まだ人間の赤ん坊の姿もとっていなかった時期だ。
「私の寿命は、あと何年?」
そんなことを思いながら、小学校の門をくぐる。
魂の居場所は、崩れる気配がない。
もしかしたら、本当の寿命まで生きられるのかもしれない。
明日突然消えるかもしれない。
「……今までみたいな違和感も、ほとんどゼロだし。離れる気配は少ないよね」
好きな事をしよう。
そう思った。
小学生レベルの勉強なら、出席して宿題を出しさえすれば成績は確実。
元々図工や音楽などの副教科は好きだし、得意な部類だ。
時間はたくさんある。
両親にお願いして、習い事でも始めようか。
ピアノでもコーラスでもダンスでもいい。
新体操とか、スポーツも面白そうだ。
なにをしようかな。
豆塚鶯、7歳。
小学校の入学式。
そこで出会うのは、小さな光だった。
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