小連載
法螺貝inペダル4
インターハイ。
インター・ハイスクール・チャンピオンシップ。
全国、インハイ、高校総体。
様々な呼び名はあるがとにかく、体育会系高校生の夏はやってきた。
「おまえら。ついにキタで。」
インハイや。
大会を明日に控えた選手たちの先頭に立つ部長が、バスの中、宿泊施設の門をくぐる景色の先にどこかを見ながら言った。
××年度インターハイ、ロードレース広島大会。
色々と複雑な事情が絡み合い、法等たちは奈良代表としてこれに出場する権利を得た。
それは県大会は準優勝だったため来年こそと皆で涙をこらえていたところへ舞い込んだ話である。
なんと県大会表彰式の時、優勝校であった三傘高校が全国への出場権を放棄すると、表彰台の上で宣言したのだ。
理由ははっきりと告げられなかったが、レース中に故意に落車をさせられたという選手がいたと複数の報告があった事や、開催同時期に何かしらの不祥事を起こした彼らの母校が運動部全体に全国大会自粛を促していただとか憶測が流れた。
お情けでの出場だとか棚ボタだとか、そんな事を囁かれることもあった。
しかし体育会系スポーツ馬鹿にできるのはそんな悪態を聞いている暇も無いぐらい練習に励むだけである。
一日経てば疲れも癒え、三日目には次のステージへの構想を組立て始める。
一週間もすれば誰も何も言わずひたすらペダルを回し、前を向けば何の雑音も聞こえないようになる。
そんなこんなで夏はやってきたし、彼らはこうしてバスに揺られて開催地である広島の土を踏んだ。
「まさか俺たちがインハイに出るとは、正直思っとらんかった。すまんな皆」
だというのに、部長のいきなりなネガティブ発言に、部員たちは「アホかこの人」と肩透かしを食らった気分である。
まあ元々そうかもしれない。
現実はそんなもんだ。
競技系の部活と言うのは、まず競技そのものが好きで何時間でも楽しく続けていられる人間と、競技に出場して評価され成績を手にすることに執念を燃やす人間が集まってくる。
その二種類の人間は対立する事がもっぱら多く、目標や価値観の違いがチームとしての力を殺してしまう結果となるのも普通にある事だ。
彼らのチームは、個人的な成績は割と良い選手が集まっていると胸を張れるレベルではあるものの、団体戦でのプレーに穴が多かった。
団体戦にチームとして参加していても、どうしても個人賞を取りに行きたがる選手が出るし、チームに貢献しようと頑張る選手に限ってそんな役回りになる事もある。
県大会ではともかく、それ以前の大会では全員がゴールに入れない事も何度かあり、部長は部員をまとめきれていないと自分を卑下する癖がついていた。
ひとえに弱小校、の名前を背負いたくない維持しかなかったがための県大会だった。
そんな話はどこにでもある、ありふれた話。
珍しくなんてない。
ただそれをわざわざ明日は全国大会だというタイミングで切り出す意図はどういうこっちゃと言いたくなるだけで。
「俺らが県の名前を背負った。全国へ出場する。夢みたいな話や。一度くらいは目標にしてきたステージを走りたい、そう思てきた。」
「目標は、表彰台や。総合優勝なんて現実味のなさすぎる事は言わん。つか言えんわ。」
「お前ら。誰か一人、このジャージを台の上に乗っけるで」
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