小連載
法螺貝inペダル3
暇さえあればペダルを回して、テスト勉強すら一年の一学期なんて適当でいいと放り投げた。
回して、回して、くらくらする頭に、神経が危ういところまで飛ぶ感覚に、馬鹿みたいに病みつきになった。
難しいことは何も考えなくていい。
ただ回せ。
回せば、前に進む。
その感覚に、安らぐから、いけないのだ。
限界ぎりぎりまで肉体を酷使すると、張りつめていた何かがふっと柔らかく包まれる。
これまで味わってきた苦しみ、ずっと続く悩み、消えない記憶、魂に染み付いたそれらが、見えなくなる。
解放されるその感覚に、溺れていった。
−−−−
「県予選のチームを発表する。まず、渡辺」
「はいっ!」
一番最初に部長の名前が上がる。
皆が納得の表情でその声を聴き、また次のレギュラーメンバーの名前が上がっていく。
実力を示すための大会の後、すぐに期末テスト期間に入ったため、この予選直前までレギュラーは確定していなかった。
この山理は部員もそう多くないうえに周囲に山や国道が多いため個人練習の幅も広い。
そのため下級生が県大会に出場する可能性も無きにあらずという。
「5番、塔野岡」
「はいっ!」
「6番、七島」
「……はいっ!?」
一拍置いて、裏返った声が響いた。
ざわつく気配があったが、間髪入れない監督の「以上6名は県大会に向けてチーム練習だ、五分後!すぐに準備!他は各自メニューをこなせ、解散!」の号令に、そんな余裕はすぐさま散った。
−−−−
「いいんすか、監督。大事な県予選に新人入れるって押し切ったりして」
「なんや不満か?佐崎」
「いや、あいつ俺らより練習しまくってるし、人付き合いうまいし、大丈夫とは思いますけど」
「そや。ついでに緊張して本番にあかんようになるタイプちゃうってことはこの前のレースでわかったしな。後輩にかっこ悪いところ見せられんゆうてやる気出すやろ、あの三年共も」
−−−−
春の長雨が過ぎたシーズン、県予選。
レース内容は決められたコースを何週という簡単でシンプル。
「準優勝、か……」
「並んだからね、どっちが勝ってもおかしくなかった」
「途中で落車が起こったからな。むしろそれが無ければ……」
「なんにせよ、決勝出場がぎりぎりだったうちの学校があれだけ優勝に追い迫った時点で最高の結果だった」
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