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小連載
月と


鰐成り代わり

過去編とか妄想してたら別人になったので成り代わりとして消化。


−−−−


俺の天気予報は当たる。



砂漠の夜に浮かぶ月を眺めながらぼーっとしているとひんやりした空気が流れ込んできたので、窓から離れてソファに座り直す。

明日も晴れだ。

俺の天気予報は当たる。

これは船に乗って生活していた経験や古傷の走る肉体の傷みもそうだが、体質、能力的な部分が大きい。



スナスナの実を食べてロギア系能力者になった時から、空気の状態、特に湿度にはえらく敏感になったのだ。

能力者になりたてで不安定だったのと、少しでも天気が崩れれば外には出られない状況に耐え兼ね、とうとうそれまでの仲間に別れを告げ船を降り、海に背を向け砂漠に籠って早数年。

いくら能力を疎んでも、食べてしまったものは仕方がない。

どうにか付き合っていかねばならないのだからとあれこれ能力制御に努め、住みやすい場所を探してたどり着いた乾いた砂だらけの、灼熱の太陽が昇る国。



ちなみに俺の中身は漫画の悪役に転生した現代人だったりもする。

犯罪嫌いだし荒っぽい事にもなるべく関わりたくはないが、この世界ではそうも言っていられない。

とある事情により生まれた国から数人の集団を組み海に出て、やりたいように進むうちに仲間が増え。

若さ特有の無茶が消えた今では俺一人の事情に付き合って一緒に付いてきてくれた部下と店なんかを開いて、しかも政府公認の海賊なんて称号をもらっているのだから人生何が起こるかもわからない。

まあ七武海に名前を載せているのはいい加減に海軍との追いかけっこも面倒になったという消極的な理由しかないのだが。



砂漠の夜は寒い。

簡単に風邪をひくような生活はしていないつもりだが、明日は早くなるだろうしさっさ就寝しようかと思っているとドアがノックされた。



「サー」

「ああ?」

「いいかしら」



明かりは入っているものの、現代の様な蛍光灯やLED照明なんて存在しない暗闇では相手の表情も分かりにくい。



酒瓶とグラスを携え部屋に入ってきたのは若い娘だ。

・・・・・・最近年を取ったのか、未婚の女は全員小娘に見える。

実際は大人な色っぽい美女だと表現するべきなのはわかっているが、特にこの娘は子供の頃を知っているのもあって、どうしても幼く見えるのだ。



「こんな時間にごめんなさい。最後にお酌させてもらいたかったのよ」

「構わん。」



流れるように晩酌の準備を整えた彼女が用意したのは、中々に上等な赤ワインだった。

俺がたまの楽しみに飲んでいる銘柄だ。

暗闇でも香りで判るぐらいには好みであるそれを楽しみながら、最後ぐらい自分の好きなものを持ってこれば良いのにと少し思う。

それぐらいで文句は言わない。



そうだ、最後なのだ。

この娘は明日の朝になったらここにはいない。

晴れ渡った空の下、あの若い船長の出航の合図でこの国を去っていく。



「不安か」

「すこし。でも決めたもの」



原作の自分のように国盗りをするつもりもない俺は、王家への献身として名前を貸し、ここら一帯の海域を縄張りとしている。

俺はこの俺にとって最高に住みやすい国に住まわせてもらうために七武海に入ったようなものだ。

政府公認という肩書は便利なもので、登録に使っている旗を立てて置けば大抵の海賊は寄り付かない。

今の所、縄張りを争うとやってきたのは世情に疎い小さな海賊船と、たまに揉め事を持ってくる変にプライドの高い賞金首ぐらいだ。

俺の縄張りは基本的にこの近くである乾燥帯ばかりなので、完全に有利なこのホームで負けるはずも無い。そのため問題にはなっていない。

正直拍子抜けするほど住み心地の良い国なのだ、ここは。



とても安全なこの国を出て、この女は危険な航海へと踏み出すわけだ。

俺もいつまでもこの国にいるつもりはないが、こんなにも潔く突然に行動する事はもうできないだろう。若さを失ったと痛感するのはこんな時だ。無茶をするには身体が重たい。



「もう仕事の引継ぎも終わらせたわ。あとは眠って朝を待つだけ。なのに眠れないのよ」

「お前は大丈夫だろう」



なにせ10代からこの国の歴史遺産の管理を手掛けている天才だ。

両手で数えられる歳で博士号を手に入れ、失われた古代文献を解読してしまうこの娘は、砂漠の片隅に眠る遺跡だけでは足りなかっただろう。

割と厄介な経歴の持ち主であるので土の下に隠すようにして生活させていたが、それも今日で終わる。

彼女にとっては既に使命のようなものだ。この際、好きなだけ歴史を追ってものを見て触れて、行けるところまで突き進めば良い。



「行ってこい、ロビン。世界一の考古学者にでもなってこい。なにせ海賊王のクルーだ、そのぐらいでなくちゃな」

「・・・・・・あなたが人の未来の話をするなんて、初めて聞いたわ」



そりゃあ、言わないようにしているからな。

無言のままワインを呷れば、娘は少し俯いた。

微妙に寂しそうに見えるのは少しぐらいこの国に愛着があったからだろうか。



そういえば最初に出会ったころはまだ俺も七武海でもなく海に出ていたから、付き合いも長いと言って良いだろう。

それでもまあ傍に置いておいた時間はここ数年の話である。



たまたま見つけた砂漠の国に眠る遺跡がどうも厄介そうな気配があるものだったので、秘密裏にその調査に協力してもらっただけ。

むやみに公の場に出し、政府の調査員を呼んでうっかりとんでもない歴史を解き明かして国ごと消されるなんて目にはあいたくない。

彼女がそれを嫌う事を知っていて、だから選んだ。

人生最大の悪夢を他人の国とはいえ繰り返すところを見たくはないだろうと判断して、危険な場所へ押し込んだのだ。

当時近くを逃げ回っていることも知っていたし、元々一所に留まる気は無いのだろうというのも知っていたから、ちょうどいいと思って。



「あの遺跡は、どうするの?」

「埋める。」

「そうね、それが一番だわ。あなたの力ならそれも簡単でしょうし・・・・・・調査書も、全部燃やして頂戴ね」

「ああ。」



やっぱり彼女の声は暗い。

遺跡の謎を解いていくたびに見えてきたものは、彼女の知的欲求を満たすと同時に恐怖を植え付けたらしい。

まあ、あれを政府や海軍が知ったら大変なことになっていただろう。王家にも秘密裏にしておいて本当に良かった。

適当にあのあたりに倉庫でも立てて、関係者が立ち入れないようにしてしまおう。

どこからか副産物が出たとしたら、それは元々俺の持ち物だったということにすれば良い。



「おい」

「なにかしら」

「お前の部屋はどうする。俺はそのままとっておこうと考えているが」

「・・・・・・もう荷物も運び終わってしまったわ。ほとんどもぬけの殻よ」

「そうか」



維持決定。

一緒に調査していた誰かにあげたいとか言ったらその通りにしたのだが、元々政府に指名手配されている彼女の部屋だったのだ。

当然隠れ部屋や秘密の脱出口などがついた要人使用になっている。

彼女の事だからそれらに加えて仕掛けも付け足しているだろうから、半端に人を近づけないほうが良い。

だから放置しながら維持させよう。部屋の主が帰らない部屋というのも寂しいが、調査書をすべて焼いた後に封印してしまう手もある。



ふと窓の外を見た。

ゆっくりと滑る月は障害物の見当たらない砂の大地をくっきりと浮かび上がらせている。

この静けさがあるのはこの娘がついて行くと決めた海賊たちの奮闘あってこそだ。感謝している。



いつもなら王国の兵隊に任せておいて十分な相手だったが、今回ばかりはいかんせん数が多かった。

俺が七武海の収集で留守の間を狙った海賊どもは、徒党を組んで攻め込んできやがった。

理由として考えられるのは軍の狗と呼ばれる俺への嫌がらせ、それと砂漠の砂に埋まっているという黄金をさがそうという野心か。

前者はともかく、後者は根も葉もない噂なのだが、迷惑な事だ。

一体誰だ噂の元。



そもそも俺が収集に応じた事は毎回伏せているはずなのに、今回はどこから漏れたのか。

情報漏洩というやつだ。探らせているが海軍だったらどうしてくれよう。

何度もこんな事があってはおちおち外出もできやしない。

留守のたびに俺の部下に兵士の手伝いをさせたら楽なのだが、後々海賊の軍事介入だなんだと言われるのは本意ではないのだ。

それに店を経営している身からも観光客が減るのも困る。この砂漠にあるのは砂と遺跡ぐらいだ。

黄金は探せばなくはないかもしれないが、発掘するのは研究者の仕事であって墓泥棒のすることではない。

いっそ広範囲の掃除をするべきか。


話がそれた。



「もう部屋に戻れ」

「はい。」

「長い間ありがとう」



・・・・・・ガッチャーン。


何かと思って顔を上げればワインの入っていた瓶とグラスが割れていた。

飲み終えていたので中身が飛び散ることは無かったが、からからと床の上にガラス片が転がる。



「・・・・・・」

「ご、ごめんなさい・・・・・・」



知的で落ち着いた大人な女性、と評判の娘がこんな失態をするのは始めて見た。最後の最後に。



怪我してないか。

・・・というか俺がありがとうを言うのがそんなに珍しいのか。



とりあえず割れたガラスは砂に変えて窓の外へ捨てた。


−−−−


「サー」の意味を調べると、元々はイギリスの叙勲制度における栄誉称号のひとつだったりしたんだとか。

他にも時代を追うごと「ナイト」「勲爵士」「父親」「準男爵」と変化し、総じて男性への敬称としてつかわれたそうな。

古代イギリス語やラテン語だと「私のご主人様」「年長者」・・・・・・うーん、なんにせよ苗字とは考えにくい。

上司やお客に対しての敬称でもあるらしいですが、とりあえず現在は「00勲章」を受けた男性に使われるようです。



じゃあ鰐の名前もそんな感じで後付されたんじゃ?

と考えまして。



麦わらのルフィ、でいうところの「麦わら」とかの二つ名に当たる部分が「サー」なのかな。


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あきゅろす。
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