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小連載
めぐりめぐる


突風に飛ばされるポリ袋みたいに空を飛び、やっと落ち着いた時にはやっぱり知らない場所にいた。

肉体から離れた瞬間、毎回起こるあの突風。

あれの度に私は目を回しては落っこちた場所でスーパーボールみたいに跳ね回る羽目になる。



(酔う、気持ちわるい、早く止まれえぇぇ・・・・・・)



風は感じないのに振り回される感覚に毎回目を回す。

今回もその例にも洩れず、さっきまでいた場所には存在していなかったはずの巨大なビルとか電信柱とか電車だとかにぶつかり跳ね飛ばされ、今は満身創痍と言っていい状態で路地裏に転がっていた。

この姿の利点は怪我をしないところだが、ぶつかった衝撃とかは感じるので体中が痛いし頭はくらくらする。

痣とかで済むレベルではないので、本格的な痛みを感じないのがせめてもの救いだろうか。

人とぶつかったら一応痛いのだけれど、前に車に撥ねられた時は衝撃だけ感じて痛みは無かった。

この身体は自立歩行ができない風に流れる風船みたいなものなので、うっかり車道に流れてしまうと車にふっとばされる。あれ怖いんだが。



(ああぁぁ・・・・・・頼むから止まって・・・・・・景色が回ってる・・・・・・)



なんの法則があるのかはわからないが、この突風は夕方になると弱まることが十回目ぐらいで気が付いた。

とりあえず太陽が沈めばバイクの速さ、月がくっきり見え始めたら自転車の速さ、星が瞬きだしたら歩く速さ、だろうか。

そのため朝方に飛び込むとひどい目にあう。

数時間で音を上げ意識を飛ばし、気が付いたら夜で木の枝に引っ掛かっていたことも何度かある。



眼下に海が見え、そこかしこにカラフルなビーチパラソルが咲いているのを認める。

法等は、いや今はすでにその名前ではないのだがとにかく彼は(彼女は)泣きたい気持ちになった。


(夏か・・・・・・)


夏と言えば海に太陽。

そう、太陽。

日の昇っている時間が長い季節だったのだ。

見たところ平成の東京っぽいビルも見える。

地球温暖化がどうこうで太陽はギンギンぎらぎら。

19時を過ぎても沈まない時だってある。



(泣きたい。)



って言っても涙を流す眼球無いんですけどねヨホホー。

この姿になってからは有名な海賊漫画の台詞が良く出てくる。

まあ声を出す喉も口も無いのだが。



ああ、今度はどのくらい浮世をさ迷うことになるのか。

ちょっとシリアスっぽく決めてみたいが鏡もないし映す顔も無いのですぐに飽きる。

これでも老い先短い体から旅立ち、幼い少年と心残りのある永遠の別れをした直後なのだが、自分は存外薄情だったらしい。

とはいえこれもいつもの事だ。

毎回身体から離れるとき、一応記憶は忘れはしないのだが、その時の感情や感覚はふっと消えてしまう。

それまでどれだけ必死になっていても、まるで夢から覚めるように消えてしまうのだ。

熱を忘れると言えば良いのだろうか。

どれだけ熱中したスポーツでも、触れる時間が減っただけでその楽しさを忘れてしまうように。



(東京か。・・・・・・見た感じは普通だったから、病院に連れていかれるかでかい事故とかでも起きなきゃ、乗り移る事はないかな)



現代の医学は進歩しているので例え自動車事故だろうとひん死になった人間も命を取り留める事の方が断然多い。

例外は即死だが、生命と言える血液が噴き出すような大怪我だと乗り移る事が無い事もある。

基準としては植物状態を免れる程度の重傷なのだろうか。

事故は嫌だ。被害者側ならともかく加害者側に乗り移るともう死んだ人間の責任を取らされることになる。



マンションの壁とエアコンの除湿機の隙間にすっぽりとはまり込んだ法等は、ぜえはあと荒い息を吐いて周りを見渡した。

この状況は別に困るものではない。

寄ってきた猫か鳥などの何かがつついてくれればすぐに出れるし、体が固定されているのは安心できる。



ビルの森の影は濃く、鬱屈とした視界だが、じっと同じものを見続けるのはまあ慣れたものだ。

こうも昼から暗いと暗闇から何かが現れそうだが、それは夜にならなければわからない。

お日様の下の妖怪なんてシュールなものだ。



(そういや妖怪とかには会ったことは無いんだよな。鬼とか悪魔は見た事あるんだけど)


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あきゅろす。
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