[携帯モード] [URL送信]

二度あることは三度ある
14

潜入捜査ならぬ強奪そのさん







目に飛び込んでくる赤いハチマキをつけた青年。

驚くが瑠璃はすぐに横へ反れて回避させる。



(なんでここで出てくるかな!?)



瑠璃は顔を若干引きつらせた。

この赤いハチマキ、どうみても真田幸村だ。

彼が出てきた方向を見ると、どうやら酒を飲んでいた後らしい。

ていうかあの見覚えのある瓢箪、私が迷彩にやった酒!

あれ多分飲んでたんだ。

ていうか身も知らない相手からの贈り物をバカ正直によく主人に渡したなあの迷彩忍者!

いや、あれかなりの上物だったから一人で飲んでしまうのが忍びなかったとか言うのだろうか。



一瞬で余計な戯言を消化した瑠璃は次に来た拳に慌てる。





「逃がさぬ!!」

「ッ、“とんぼ返り”!」




ギュン!と風斬音。

ぐるりと回る視界、後ろへ引っ張られる身体。



風に煽られる紙ヒコーキのように飛ぶなか、瑠璃は屋久の足から手を離した。



“とんぼ返り”は素早さで勝っていれば無傷で交代ができるという長所がある。

交代をキャンセルは出来ないが、この瑠璃がそこを考えずにこんな技を繰り出すなどと思わないで欲しい。



まさか自殺する気ではない。

きちんと計算しているのだ。

瑠璃はこちらが落っこちてくるのを待つ向こうをにやりと見た。

空中をくるくると前後ろに猫のように回りながら瑠璃はとある方向を睨んで叫んだ。






「焔尾、来い!!」






闇と月が支配するその場に、真っ赤な紅蓮の炎に包まれた馬が踊りこむ。

呆気に取られた忍やら旦那やらがいっそ面白い。



「なぁっ・・・・・・!?」



屋久を呼ぶ寸前に一つだけ待機させて置いたのだ。

焔尾ほどまでレベルの高いポケモンならば自分の意思でボールから瞬時に飛び出すなど造作も無い。

そんな焔尾といえば軽い音をさせて地面を蹴り、瑠璃をその背に受け止めた。



青い炎の馬の対になるような紅蓮の炎の馬。

それへ跨るどこのものとも知れない人間。

その姿に迷信深い人間ならひれ伏すかもしれないと思えばいよいよ可笑しい。



立ち位置の大きな転換に飲まれないように自分を鎮め、瑠璃はしっかりと焔尾の首にしがみつく。

指示も待たずに焔尾は馬小屋へ向かって足場の悪いはずの塀を全速力で飛ぶように駆けるので必死だ。

新幹線の速さでやっとたどり着いた目的地の馬小屋では葵尾が待ち焦がれた恋人の再会を喜ぶ乙女、姫だ。



遠目だが、見たところ外傷がないと安心する。

もしあったりしたら瑠璃が不甲斐なさに嘆くし焔尾がこの城を一面火の海に変えてしまっただろうので幸運だったといえる。



(四方を囲む柵があるだけ。・・・葵尾、なんて良い子。あんなの飛び越えられるし燃やせると分かっているのにやらなかったんだ)



そうだ、最後に置き土産に見せてやろう。

高速移動までかかっている中、瑠璃は焔尾にぼそりと指示をする。

頭に血が上っていないらしい焔尾はすっと従う。






「おいで、葵尾!!」






その瑠璃の掛け声と同時に、焔尾が柵の一つを燃やして立ち上がった葵尾が軽々と炎を飛び越えて並走に入った。

柵に囲まれて、走りたかったらしい。



腹は空いていないようだし、思う存分走らせようと思って瑠璃はあろう事か焔尾の背から葵尾の背中に飛び乗った。

見事な着地。

こんなことは絶対に真似しないで欲しい。



例えるならば走っているバイクからバイクへ飛び移ったような状況だ。

赤いの達はその深い信頼から来るパフォーマンスに声も出ない。

8割がた恐怖と畏敬の念で。



「あんなに炎が燃えているのに・・・・・・!」



それを聞き、心の底でほくそ笑む瑠璃がいた。

あの赤いのは触ろうとしてこの鬣や尻尾で火傷をしたのかもしれない。

ギャロップの炎は信頼する相手には攻撃しないのだ。



最後の仕上げとばかりに瑠璃は二匹同時に“飛び跳ねる”を指示する。

やっぱり焔尾よりも葵尾のほうが乗り心地が良いと優しくその首をなでた。



飛び跳ねて空中を泳ぐ瞬間、月が綺麗だと思った。











(・・・・・・)

(旦那、無事!?)

(・・・逃げられた)

(追いかけるのは無理だね・・・あの馬、炎噴いてたけど実力隠してたのか・・・・・・?)



(そうか、あの馬の本当の名前は葵尾といったのか)






[*前へ][次へ#]

14/22ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!