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リコリス
七説


「なんでだよ、兄上」


−−−−


ぎゃあぎゃあと、烏が騒いでいる。

冬の寒空に飛ぶ黒い姿は、都市開発が進むにつれて年々増えていったのを紀一郎は覚えている。

江戸に来て仕事をするうちに知ったが、自分の生まれ故郷の海は、江戸と並んで早い内に天人の手が加えられていった場所らしかった。



そこで生まれた自分は時代の境目を見てきたんだなあと今になって思うのだ。

むしろ今でこそ途中で開発がストップしたためそこまで目立たないが、天人と幕府の戦争が激化するより前から根が張っていたのだから、江戸以上にその移り変わりは長い間続いた。

ちなみに天人に襲われて壊滅していった村は多いが、天人同士の争いに巻き込まれる経験をした村はこの国でも珍しいらしい。

それを考えるとそんな中を生き延びた故郷の人間はかなりたくましい部類に入るだろう。

特にそこで集団の指揮をとっていたものなんかは。

つまりは自分の兄や、烏羽軍のリーダー達の事だ。

小さな村の事で彼らは時代に名前を残しはしなかったが、確かに誰より稀有な存在だった。



ずいぶん前に兄は言っていた。

天人や戦争という大きな敵が現れても、この国は一致団結するようなことは出来なかった。

そのうち地球の資源を求めて別の星の天人同士が争うし、それに巻き込まれる地球人もたくさん出る。

せっかく歴史では一つにまとまっていたはずの国が割れて地球人同士で争うのも起こってくるかもしれない。

ただ怖いのは、それらが同時に起こる事だ。



数十羽の烏が飛んでいる。

黒い翼を広げて、空を飛び回っている。



「処刑、されたって、どういうことですか」

「そのままだ。一度は釈放されたのに、将軍様の暗殺の疑いだとか、ものを盗んだとかで捕えられ、処刑される者は多いんだ」

「・・・・・・そんな」


−−−−


何かが起こっている。

ずっと遠い、誰の目にも触れない場所で、何かがうごめいている。



「鶴!お鶴!どこだ!?」

「どうしたの、あなた様」



勝手口から飛び込んできた夫の姿に、紀一郎の妻、鶴は目を瞬かせた。

武家の娘と田舎男の恋愛ストーリーを経て一緒になった二人は未だに新婚のノリが抜けていないとしばしば言われるがそこはそれ。

普段は見せない夫の表情に、鶴は緊張した空気で向き直った。



「引っ越しだ!荷物纏めろ!」

「えええぇぇ!?」


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