リコリス
2
根続き人生早20年。
早すぎるとか言われても私は知らない。
そんなことよりも言いたいことだが、新しく与えられた人生は、前世とは時代がずれていた。
それも世界規模でずれていた。
まず生活していればわかるのだが、国名が『日ノ本』。
ついでに江戸幕府で徳川将軍。
時間遡ってる!と頭を抱えたのは乳幼児期。
でもってなんか爆音と爆風をまき散らしながら宇宙船が頭の上を通って行ったのはつい最近。
戦争勃発したのはついこの前。
銀魂ァァ!と頭を抱えたのは十年前だ。
それはもう置いといて。
喚き叫ぼうとどうにもならないことは元からわかっているので特に何事もなくすくすく成長した。
ちなみに今世の家族は両親に父方の祖母、それから弟一人と特に目立ったところはない。
村はそこまで天人の進行を受けてはおらず、生活水準は苦しくなくとも質素倹約、古き良きものだ。
ついでに親は武家ではないが剣の握り方ぐらいは覚えておけと村に一件しかないぼろい道場にも放り込まれたりした。
この村の男子はあの道場の師範である竹刀片手に怒鳴るじいさんの扱きに耐えられたかどうかで度量が決まるらしいと聞いていたので頑張って続けてみたりも。
まあ特に何事も問題なく過ごしていたが、10歳ごろこの平和な村になんかややこしいのがやってきた。
天人の軍勢だ。
軍勢というか地球の資源を手に入れたいどっかの星からやってきた方々は勝手に村の海岸近くを占拠して工場を建てやがった。
何を作っているのかは知らない。
ただイメージも悪いと煙をもくもく出したりはしないのだが、代わりに海へ産業廃棄物を遠慮なく流しているらしい事が分かったのはつい最近だ。
ここまで言えば分かって下さると思うが公害が起きた。
骨がボロボロになったりする病気でなかったのはまだ救いだったが、そのうち別のを発症する可能性もあったりするのが悩みだ。
その公害と言うのが『色が抜ける』というもの。
まず海で取れる魚の多くが全部白身魚になったり、メダカみたいに透明な変種が増えた。
海で遊ぶ子供たちの髪の毛が茶色くなっていった。
魚を食べた人間の髪も色を失っていった。
でもって数年経った頃、海で仕事している海女さん達が産んだ子供を中心に、髪の毛が茶色や金色をした赤ん坊生まれてくるようになった。
10年経った今では、この村には黒い髪のほうが珍しいぐらいだ。
かくいう私の髪も色が抜けており、海で仕事する事が多いのも相まってほとんど白に近い灰色をしている。
染まったわけではなく生えてくるものまでそんな色なのだから諦めるしかない。
うちの村の魚を食べた動物は大抵色を失う。
おかげで村近くに住む犬や猫や鳥も白いのが多い。
それで困ったは漁業だ。
そんな事情のある村の魚は他所へ持っていっても売れないのだ。
その上自分たちも色の薄い髪をしているのだから他所の人の前に出るのがいやになってきた。
皆そんななので悲しいことにうちの村はどんどん閉塞的になっていった。
公害だということは皆承知なので工場に抗議文送りつけたりした村人もいる。
もちろん受け取り拒否だったが。
そして人数を増やしてまた持って行った。
また追い返された。
あの時。嫌な予感がしたのは私だけだろうか。
最終的に抗議活動は村規模に成長しつつあった。
雛見沢のダム計画のあれをイメージしてもらえばわかりやすいだろうか、あんな感じになった。
・・・・・・どうしよう。
どうしようってあれだ、その抗議集団の主格は村の中でも歳若い男衆だ。
抗議運動の一つでもやりたい気持ちはわかる、村の未来は自分たちの未来、幼いころから未来に閉塞感を感じ続けている彼らここにきてやっと立ち上がろうとしているのだ。
皆とは同年代でありかつては村中走り回った仲間だ、応援してやりたいとも思う。
だけど、だ。
彼らの多くは道場出身である。
道場の師範の教えを魂に刻み込んだ若き侍。
言い方を変えれば血の気の多いアホ共。
喧嘩や揉め事、気に入らないことは竹刀を振り回して解決してきた連中だ。
つまりいつ暴力に訴え出すかわからない。
そして頭痛の種がそれを止められる人間がいないことだ。
私が止めろ?馬鹿を言っちゃいけない。
抗議集団の中には村長の息子さんやずっと年上の方々もいらっしゃる。
私と言えば今年18歳の自分の弟の暴走をぎりぎり止めることができたぐらいだ。
どうやったかと言えばまず話し合い。
でもって例に漏れず血の気の多い弟との話し合いは結局は男の勝負と言う名のチャンバラへと発展し、どうにか私が勝って言う事聞かせた。
けれどそれは一対一だったからできた芸当。
村規模の集団を止めたいとは思う気持ちはあるが私のような若造に何をせいと言うのだ。
元々私は精神的には若くないし肉体も体力の折り返し地点を感じ始めているのだ、これ以上の荒事はしんどい。
やる気出せ?
この世界は銀魂の世界、勇気や根性ではどうにもならないことがある事をすでに身に染みて知っている大人が主人公なのだ、このぐらい許してくれ。
そんな感じでこの話は始まる。
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