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リーマス・ルーピン。

雹にとって彼は友人だった者、だ。

つまりは、過去の存在。

この小説の中での、サクラとしての思い出。

端的に言えば、彼との記憶をほぼ持たない雹には知らない人間も同然なのだ。







(・・・どうすうるか)



雹は手紙を括りつけたふくろうを見送りつつ、頭を抱えていた。



(・・・さっきは殆ど無視してきちゃったし・・・うああ何問題を後回しにしてんんだ私は・・・)



何も考えていなかったわけではない。

過去の友人であったルーピンと、どう接するかは夏の間中考えた。



けれどここで問題なのが、彼女はルーピンにだけでなく、スネイプやダンブルドアにまで、とある魔法をかけているということ。

それは、サクラ=桜花雹と気が付かれないようにかけた魔法。





(彼は、私を見たとき何かを言いかけていたけど・・・恐らく、なんとなく見覚えがある生徒、にしか映っていないだろうな。)




しかも、その感情すら時間に任せて消える。

どういうつもりで過去の自分がそんな魔法を彼らにかけたのか、雹には分からない。

忘却術を自分にもかけてまで殺したエピソードがどれだけ悲惨な記憶だったかを知る術は、ただ待つのみ。




(一体、闇の暗黒時代になにがあったんだか)




過去の自分は、よっぽど自分の存在を消したかったらしい。

それがサクラを守るためなのか桜花雹をただ平凡な学生生活を送らせるためだったのかは微妙だ。

結局、それからら決定的に分かることは一つ。





(――私は、彼らに、雹がサクラだと名乗ってはいけない。)







だからこその、決意だ。

自分の名前は桜花雹。

再会するであろう学び舎に居るときは、ただの一生徒として振舞おうと。

彼らとサクラとして接することをしない、と。



運転手にチョコレートを渡し、発車の予定について話した後にふくろう便を送った。

それにしても汽車にふくろう飼ってるんだな。



ふくろうを見送りながら、雹は続いて考える。

雨が冷たいのでさっさと中へ入ろう。







(でも私は、なぜ忘却術を使わずにこんな面倒なことをしたんだ・・・?)



というか、今の彼女ならそうする。

もし自分とのかかわりが原因で誰かが危険な目にあうなら、そうしてしまったほうがずっと安全だ。



(なぜだ・・・?)



水に濡れた髪をガシガシと引っ掻く。



(なんで、サクラは!リリーを、救わなかったんだ!?)

(なぜ!)




雹が過去の記憶の一部を取り戻した日、最初に考えたのはそれだった。



留学生としてやってきた自分を迎えてくれた少女。

寮は違えど、大切な大切な親友だった赤い髪の女の子。



ハロウィンの日に、その時間に存在できていなかった可能性だってある。

どういう経緯で自分がいろいろな時間を行き来しているのかについて、彼女はまったく未知だ。



けれど。



主人の様子のおかしいことに気がついた雪獅子が、その頬に擦り寄る。

雹は知らずのうちに涙を流していた。



ははは、と喉が震えているのか分からない音が唇から漏れる。




(ルーピンは、覚えていた・・・。思い出すことが、出来ていた・・・)







一体、リーマス・ルーピンと言う男にとってサクラと言う人物は今どうしていると言う認識なのだろう。

そんな事を考える。



まさか若返ってもう一度退学になったホグワーツに今度こそ卒業しようと通っているなんて、考えも着かないだろう。

もしかしたら、サクラは死んだと思っているかもしれない。



そう思うと、笑えた。




(大体あの時代からいなくなったのはちょうど魔法界の暗黒時代だしなぁ。)



笑いついでに、思い出す。

そう、サクラは突然に姿を消したのだから、死んだのだ。



実際、大怪我をして虫の息になったのは真実であり、その傷を癒すために姿を隠したのだ、サクラは。

その成り行きでずっと行方不明。

それどころか生死不明なのだから、死んだと思い込んでる人だっているはずだ。



特にあの親友達とか今は逢う事叶わぬ人達とか。

もうすぐ思い出して逢えるとは思うけど、正体を明かす気は無い。



そう、名乗る気はないのだ。

今だって雹は、セブと愛称で呼んでいた彼にも、自分がサクラだと名乗ってはいない。





―――サクラは、死んだのだ。





名乗るだけで、あの魔法は解ける。

けれど全ての記憶が戻るまで、雹は自分がサクラだと認めることが出来ない。

恐ろしい目にあった過去を背負う勇気が無いだけかもしれない。



臆病者だと、自嘲する。











(決定。新任教師リーマス・ルーピンに対してのこの私の挨拶は、はじめまして、だ)






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