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キーンコーンカーンコーン・・


下校時刻を知らせるチャイムが鳴った。

月曜日がやっと終わったところで、あまり嬉しくない。



「どしたん?ぼーっとして」


『あ、なんでもないです先生』


「そう?んならええわ、ちょっと来てくれる?」



先生につられて来たのは図書室。


ああそういえば新しい本が入ったって図書週間に書いていたっけ。

彼女、桜花雹は図書委員会に所属している。

放課後の手伝いをさせられることもしばしば。


まあ、一番に新冊を読めるというメリットがある。嫌いな仕事ではなかった。



「そっちのダンボールの中身を運んで欲しいのよ」


『はーい』



中身は歴史小説ものの分厚い本が沢山だった。

挿絵を見て胸が高鳴った。



『うわー おもしろそー・・』


「読むのは後にしといてね」


『わ 分かってますって』



一時キラキラと目を輝かせた雹は慌てて本をダンボールから出す。

先生とは長めの付き合いだから、ストップをかけてくれるのはありがたい。



「早く終わらせられたらここ使かってていいから」


『よっしゃすぐ終わらせよ』



お駄賃として、最終下校時刻までの読書タイムを約束させてくれるのはまた嬉しい。

部活をサボるのは気が引けるが

今日はどうだっていい。七面倒くさいミーティングで終わるはずだ。

もう春休みが近い。



『って先生っ いきなり重たい箱持たせないでびっくりした』


「あ、そうだ、春休みも一回来て欲しいのよ」


『え!?』



アバウトで自己中過ぎる教師に、思わず生徒の抗議の声が出る。



「今月の27日ねー。お茶とお菓子あげるから9時に来て頂戴ね」



『うわー悪い笑顔ー、っていうか27!?その日誕生日なんですけど!?』


「え そうやったん?でも来てもらわなきゃ困るんよ」


『はー・・・分かりましたよ、9時ですね』



この先生は性格はともかくいい人だと生徒は思う。

とりあえず約束はやぶらないし嘘つかない。

だがたまに溜め息が出る。



「にしても桜花も17か!彼氏いない歴17ねー」


『本の角で頭なぐりますよそれが人にモノ頼む態度ですか』


「あんた具体的なこというから現実的で怖いわ」



ーーーー


火傷をした。

久しぶりにお菓子でも作ろうとドーナツを揚げていたら中に空気が入っていたらしい。


膨張していきなり破けた。

熱い油が手や肩に掛かった。



熱いというよりもびっくりした方が大きかった。

急いで水で冷やしたがまだひりひりする。


___7日前の話。




『あーまだ治りそうにも無いか』


「どしたん火傷?」


『あ はい。揚げ物が爆発して』


「・・どういうこと?」


『中に空気入ってたんです』


「そうか・・。この前は気付かんかったけどな」



この前、というのは月曜日の事だ。

火傷は7日前の日曜日にした。



『んーだんだん広がってきてるみたいでイヤですよー』


「そうなんか?」



現在、職員室。3月27日の朝9時。

雹は山済みの本を指差し、言った。



『これを運べばいいんですよね』


「おおそうや頼んだでーウチもすぐ行くから・・・って忘れてた」



『はい?』




先生はコーヒーカップを置き、桜花に向き直った。

にっと笑って「誕生日おめでとうな」と言う。



『覚えてたんですか』


「ひどっ」


『いえありがとうございますでも

それなら仕事押付けてジュース買いに行ったりしないでくださいよ』


「わかっとるって」



どうだか、と笑いながら職員室を出る。


・・・それにしても重い。

本を入れたダンボールに、学生カバンも持ってるのでバランスが取りにくい。


カツン、カツン、


廊下を渡り、階段を登りながら中身をチラッと見る。



『新品の図鑑と詩集・・あ、これウォーリアーズ?』




・・・ウォーリアーズならすでに全巻図書室にあったはずだけど。

わざわざ文庫版を取り寄せたのか。

もう図書室の本でメジャーなものはほぼ読み終わってしまった雹だった。



『あ、音楽の教科書みたいのまである・・・なんに使うんだか』



雹はたまに誰も読まないような本が隅っこに置かれているのは図書室の1つのナゾだと思っている。

逆にずっと帰ってこない人気の本もある。

雹は独り言を続ける。

春休みなのですれ違う先生もいない。



『文庫版がほかにもあるわー・・・人気のヤツばっか・・・ライトノベル多いなー・・・外国の作家のヤツも・・・・・・』



よいしょ、と1階の階段を登りきり、次の2階の階段に向かう。

チリン、とカバンのお守りに付いた鈴が鳴った。



『あ。ハリー・ポッターまで・・・・・・最終巻まであんじゃん』



辞書並みに分厚い文庫本が詰め込まれていればそれは重いに決まっている。

雹は肩からずり落ちかけていた鞄を持ち直す。

ぎし、と階段がきしんだ。


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あきゅろす。
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