桜
1
シュー、シュー、シュー。
背の低い植物が整列するようにきちんと整えられたある屋敷の庭でそんな音が移動していた。
地面に生えた小さな赤い果実の傍を通り、小さな隙間から屋敷の中へと移動する。
(・・・・・・・・・裏切り者は・・・獄の中・・・)
(・・・地獄・・・牢獄・・・投獄・・・)
(哀れな愚図は裁きを受ける・・・・・・)
低い声が何かを呟く。
重苦しい響きの中に、歓喜の色が垣間見える声だった。
−−−−
「クィディッチ・ワールドカップへ行きたい」
『なにさ藪から棒に』
リドルの顔を見て、雹は仕分け作業中の書類を置いた。
教師と生徒という両極端な肩書きをかれこれ2年ぶら下げている彼女は、目の下に木炭を擦り付けた様な隈を作っている。
今年の夏は色んな事件――ホグワーツで騒ぎが起こらない年など無いのだが――とにかく大きな騒ぎが起こったのでその後処理に追われているのだ。
そこへ生徒としての夏休みの宿題や日常生活の手間がプラスされればそりゃあ忙しい。朝に顔を洗うのを忘れてしまうくらいには。
「ワールドカップだよ。特等席で見物したい」
『いってら』
「君も行くんだよ?せっかくS席のチケットを二枚手に入れたんだからね」
いつの間に応募したんだ。
雹は頭の端で疑問を出すが返答する気力は無い。
『まさか朝から券売所にならんだの?君が?』
「それこそまさか」
そう言ってにやにやといやらしい笑みを作る友人を見て、雹はこれ以上彼に何かを言うのはやめようと黙った。
彼の忠実なる下僕の多大なる努力の賜物だったりするわけであるが知らない方が幸せなこともある。
『レギュラスと行っておいでよ案外話も弾むかもよ』
「冗談じゃないね」
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