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一瞬、目の前が真っ黒に染まる。



闇の中のはずのその映像は何かを示していた。

鮮やかに鮮明に、雹の脳へと直接送られるなにかの映像、音。

叫び声。




『嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!』

『お願い、行かないで!』




誰だ?




『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい』



なんて苦しそうな声。

必死な声。



『一人にしないで!』



子供の、叫び声。

そして、黒。




(――――――)








一瞬にして、途切れる。

妙に納得した。



(ああ、ごめんね)

(長いこと、待たせてしまった)

(待っていてくれたんだ)







負けてはいけない。



(・・・離しては駄目だ、駄目なんだ、絶対に)



珍しく必死にそれを握る雹の顔には冷たい汗が張り付いていた。

それでも離さない。

離してはいけないのだとうわごとのように言う。



(・・・今離したら、もう)






永遠に失われてしまう。

二度と逢えない。





修復の魔法をありったけの力を込めてかける。

大きすぎて闇の魔法となった負の感情の塊を拭うように。



灰色をしたそれの表面が、ちらりと光を宿す。

これが、元々持っていた輝きだ。



また、力を込める。



戻って来い、と念じながら。










どれぐらいそうしていたのだろうか。



いつの間にか雹は身体を地面に横たえ、半分眠ったような目で手の中を見ていた。



汗の滲んだその手。

替わった模様の刺青が入った片手をずらすと、控えめに光る宝石が出てきた。

半透明のそれは濃い目のオレンジ色。



琥珀、だ。



きっとこの木から作られたんだろう。

きっと気の遠くなるような年月の中で作られたタイムカプセル。




はぁっと息を吹きかけ、寝転がったまま、雹は手の中のそれをしげしげと見つめる。



天然の無加工の品など殆ど見たことが無いが、大きい。

透明に近いペールイエローから、赤の混じった黒色、金魚のような紅、バイオリンのようなあめ色の茶まで混じっている。

魔力も感じる。

純粋な、けれど暴力的なほどの大きな力。



鈍色に染まっていた腕や肩もすでに灰色に戻っていた。





――ああ、なんて懐かしい気分なんだろう









そこで、雹の記憶は途切れる。







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