桜
1
ハリーはそれらしいことを言って話をあわせようとしたが、おばさんはやっぱりハリーをけなしたいらしい。
しょっちゅう鞭で叩かれると肯定すると、言い方が気に入らないとうなられる。
「鞭の入れ方に問題があるんだろう。ペチュニア、手紙を書かないかい?この子は万力込めてひっぱたけってさ」
「マージ、今朝のニュースを聞いたかね?あの脱獄犯をどう思うね、え?」
話が進めばつじつまが合わなくなると感じたのか、バーノンおじさんは話題を変なところで切り替えた。
そのときだ。
インターホンが鳴った。
『お届け物です、ダーズリーさん』
宅配便だ。
「おい、お前取ってきな。それぐらいしか出来ないんだろう」
「はい」
間の良い宅配だ。
遅かったら嫌味を繰り返されるだろうが、ちょっとでもここを離れられるならそれでいい。
けどくだらないセールスだったりしたら怨んでやる。
ハリーは大人しく返事をして、玄関から出て行った。
宅配を運んできたのはぼんやりとしたおっさんだった。
仕事をするのは何年ぶりなのだろうという手つきだ。
年末でもないのに郵便局は大忙しなのだろうか。
サインをし、受けとった小振りのダンボールの上に乗っている手紙を見る。
差出人は――知らない名前だ。
だが関係は無い。
さっさとこいつをリビングへ持っていかなくてはいけない。
「遅い!何もたもたしてたんだい」
ここにハリーの親友の一人がいたなら、マージおばさんを見て、この女性は湯婆場にそっくりだと言っただろう。
今日からお前の名前は千だ、分かったら返事をおし!千!
それならダドリーは赤い前掛けの巨大赤子だろうか?
まあしかしそんな人物はここには居ない。
そもそもあの名作アニメ映画はこの時代に存在しない未上映作品だ。
「誰からだ?」
「・・・・・・うん?ペチュニア、リラ・ライトポーンなんて名前、聞き覚えがあるか」
「いいえ。知らないわよ。手紙にはなんて?」
『荷物を送りつける無礼をお許し下さい。
ここにいらっしゃる坊ちゃんには階段から落ちかけたところを助けていただきました。
お礼のブドウ酒を、落し物の傘に同封します』
「なんて優しい子なんだい、ダッダー!」
「ほんとねぇ」
親切な坊ちゃん、が自分の子供だと信じて疑わないおじさんに向かってこの傘僕のなんだけど、と言いたい。
この穴あきが酷くて傘の役目を果たしていない品だ。
見るときれいに縫われていた。
これを送ってきた人のほうが親切だ。
けど、階段から落ちかけた人を助けたことなんかあったっけ?
そこで気が付く。
黒い折り畳み傘に、見慣れないシールが貼ってある。
はがそうとして、止めた。
これはたしか、見たことがある。
雹があの木の香りのする部屋で作っていたプレゼントシールだ。
手紙に貼り付けてあるのをはがすと、羽根や花びらの幻が飛び散るシロモノ。
クリスマスプレゼントにくっついていたやつだ。
まさか、これを送ってきたのは雹なのか。
階段から落ちた?それって彼と僕が始めて会話したときの話じゃないか!
立場逆だけど!
ダーズリーおじさんは手紙をまた読み上げる。
眼鏡の坊ちゃん、ありがとう、というくだりで口が止まる。
この手紙の坊ちゃんがハリーだということを理解したらしい。
そして気まずくなる前に、ハリーは傘を玄関の傘立てにおきに行くべく出て行った。
きっとこれのおかげで嫌味の内容が減っただろう。
遠い東の国に居るであろう親友に向かって感謝の念を送った。
なんてすてきな演出だ。
後の話だが、シールをはがすときらっと光って文字が浮き上がった。
『ハッピーバースディ、ハリー。
魔力に反応して発動する設定にしてあったが、気が付いたか?
ちなみにこの文字はマグルには見えない仕組みになってる。
後でこの傘を開いてみてくれ。
あんたへのプレゼントが出てくるはずだ。』
誕生日おめでとう、という素っ気ない文字がたまらなく心の琴線をくすぐった。
夜になったらこっそりこの傘を持ち出してベッドで開いてみよう。
プレゼントはなんだろうか。
ワクワクしながらハリーは考える。
きっとあのブドウ酒を飲んで酔っ払ったおじさんたちは、ハリーが傘を自分の部屋へ持っていこうとしても気に留めないだろう。
そこまで考えてくれていたなら、あれだ。
雹ってすごい。
君って最高!
ロンと共に何度か口にした言葉を頭の中で反芻する。
少なくとも今日一日は耐えられるかもしれない。
手紙の最後はこうだった。
『成長したハリー・ポッターに、乾杯!』
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