桜
5.5
暗闇の中で、少年が一人ぼっち。
光は無い。
元の光があったので、一層暗い。
深海の中の暗闇も、ここまで圧迫されるような闇に名想像できない。
息が出来ない、重苦しい空間だった。
と、そのとき。
かこん。という音を聴いた。
少年が前を向く。
そこには、求めて止まない少女の姿。
けれどいつものような服装ではなく、そして困ったような、悲しいような、そんな顔をしている。
黒い髪。
黒い瞳。
闇に溶け込むような真っ黒な服。
何でも良かった。
もしも目の前にいるのが、彼女の皮を被った醜い蛇だとしても、
その幻想に溺れてしまいたいというぐらいに、少年は草臥れていた。
「サクラ・・・・・・ごめん、僕のせいで・・・・・・怖がらせて・・・・・・」
彼女が可愛がっていたリュウという名の小さな蛇。
少年の感情に干渉した魔力が・・・まだ彼はそれの名を知らないが・・・暴走した結果、殺してしまった。
知っていたのだ。
少年は、自分が生きるものを操ることが出来ると。
少女を引き止めるだとか取り戻すだとかとは関係なく、ただ。
肥大した蛇は大蛇となり、少女と少年を繋ぐ一本の木を再生も出来ないほどに砕き、蛇は腹に太い枝を刺して死んだ。
それだけの事だった。
なによりも少年が絶望したのが。
最後に見た彼女の顔が、恐怖に彩られていたことであって。
「もうここであなたに会えなくなったの。」
少女が言った。
「入り口があんなふうになっちゃったから。」
木の面影どころか、根っこすらも残らないあの惨状では、この空間もしばらくして眠りにつくと雹は感じた。
帰れなくなる前に脱出しようと思ったが、どうしてもこの子供を放っておけないので、自分自身に縮み薬と似た魔法を使って現し魔法まで使って、少年の前に現れてしまった。
そして言う。
「けど、また会えるはずだよ」
「・・・・・・え?」
「会える。きっと。」
保障はある。
覚えてくれているかは限らないけれど。と。
少年はそれを聞き、力強く言う。
「絶対に忘れないよ、絶対に」
「・・・・・・ありがとう」
暗闇が、黒い霧のように二人の間を隔てた。
「またいつか」
別れの言葉は笑顔で、再開の約束でなくてはいけない。
桜の木は始まりと別れと出会いの演出。
雹は泣き笑いのように顔をゆがめ、言った。
「またいつか。トム・マールヴェロ・リドル」
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