桜
5.5
女の子の方はキョトンとしている。
でも理解したらしく、そうだね、とにこにこする。
「木登りしよう!」
「は?」
あら、なんかあの子私と似ているんじゃない?
雹はなんとなく目を細めて彼らを眺める。
自分もあんな子供だった。
(馬鹿な子供のフリして、無理矢理自分のペースに持っていこうとする性質。)
そうである。
なんもわかりませーんしりませーんとかいう雰囲気で狂わせる手口だ。
なんというか、可愛いが可愛くない。
(自覚があるかはしらんが十中八九あれは意図的だな。男の子の方は分かっていないみたいだけど)
そう雑念を思い浮かべている雹はほっといて、女の子の方はさっさかさと木に登る。
そして早く登りなよーとか何とか言い、
男の子の方が馬鹿じゃないのこの子、という目をすると、
あら登れないの?こわいの?だいじょうぶこわくないよ?と木登り少女はなぜかすべて疑問系で言葉を発する。
もとい、ささやかな挑発をする。
男の子の方は、ちがうわこのやろう、という顔になってわっしと一番近い枝に腕を回して登っていく。
なんだか昔の自分を見ているようである。
「あ、リド君、枝折っちゃだめだよ?たたられるからね?」
「・・・リド君って呼ぶなと僕はお前に言ったはずだ」
けど物騒にもたたられるとか言われて気にしているのか、リド君はそっと動くようになってる。
「ちゃんと呼んだら怒ったじゃない。そっちこそお前ってしか呼んでないし」
「お前はお前で充分だ。バカ」
「私の名前はバカじゃないよ?」
それともリド君、教えたのに名前覚えてないの?
それこそバカじゃない?
(・・・・・・、)
リド君は馬鹿っぽい子にバカと言われてムカついている様子。
・・・なんか、こういうやり取りをどこかで聞いた事が気がする。
というか言った事があるような?
まさかのまさかだが、あれって昔の私でしたーとかいうオチは期待してないよ?
たらりと雹の額に変な汗が流れる。
「私の名前は、サクラだっていったじゃん?覚えてよ?」
おいこらまて。
それは私の旧姓なんだが。
雹の投げやりな言葉はとけて消えた。
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