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「また、新学期に」






そう宙に向かって言い、

雹はプッラトホームから離れた。



(けっこうな距離はあるけれど)その隣に立っているハグリットは

そろそろ見えなくなるだろうにいまだ、列車に手をぶんぶん振り続けている。




おそらく列車の音が聞こえなくなるまでここに居るつもりだろう。

さすがにそろそろ帰りたいなと思い、さっさと湖に向かう。



雹の単独行動はいつもの事だからだろう。

ハグリットは気が付いているのだか分かりゃしないが、そのまま何も言わなかった。






(一年。速かったんだか長かったんだか分かんないな)







しみじみ思い返していると、既に湖が見えてきていた。



ざわざわ、ざわざわ、

風に並木が揺れ、気分を落ち着かせる。

暖かな日差しを浴びた葉が、美しいみどり色に光る。







ふと、黒いもやが漂ったのを見た。



え?



次の瞬間、雹の周りが黒い空間に変わった。

まっくろな煙とも泥ともとれる物質が足に、腕に、纏わりついていった。

底なし沼のようだ。





(な、に?これ)




なぜか恐怖は浮かばなかった。


こういった経験を何度も体験してしまったため、鈍くなっているのかもしれない。

痛覚とか、恐怖心とか。



もしくは身体と感情がずれているのか。

感情が追いついていっていないのかもしれない。



または。

他のものに意識が移っていたのかも知れない。





(――誰・・?そこにいるのは)





そこ。

小さなあかりが点っている・・というよりも、そこだけ透けているようだ。



何かがあった。何かが居た。

白っぽいものが、存在していた。




人の気配がした。

控えめな呼吸。押し殺した息。




――泣いている?




『君――』





どうしたの?


声が届くか分からない。

だが呼びかけずにはいられなかった。




あまりにも、小さな子供だったからか。


そうかもしれない。素直に雹は思考する。





(・・・?どこかで、こんなことが・・・)






ああそうだ。

夢の中で、だ。



ふっとそれが過ぎった。

意識がふわりと持ち上げられた。






『、え――――』






消えた。


夢のように幻のように幻想のように、黒が消えた。


かわりに白があった。


樹齢はおそらく4世代分ぐらいあるであろう大木のグリーンとブラウンの根元の闇。


そこに綿のように白い、純白があった。








(・・・白い・・犬・・・いや、猫?)





ヒュウウン。




声は、ガラスをぶつけあうような高く、澄んだ音だった。


そしてその白は、羽が在った。

それこそ平和の象徴の鳥(ハト)のようなイメージ。






白に近付こうと、足がふらりと動いた。


白い生き物は震えこそはすれど、逃げはしない。


指先が、触れた。


柔らかい、短めのきめ細かい体毛。





ヒュウウン。



目が合った。









この出会いが、次の物語に繋がる。

そしてそれを、雹が予感していた。





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あきゅろす。
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