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要はこういうことだ。

桜花雹は、死ぬはずのクィレルを生かした。










焼け爛れ、砂のように崩れた肉体に伴い、

そこから離れかけたクィレルの霊魂。





それを崩れる前に、離れる寸前に

切り離すことで命を取り留めさせた。



ばっさりと空間ごとクィレルを『斬った』あの白と黒の光。





半ば強引に。


むりやりに。


『新しい仮の肉体』に憑依させる形で。


その命を繋ぎとめさせた。







罪悪感はあるが、これは雹の意思であり。

黒い鳥の意思だった。







『彼のような悪人は死んだほうが良かったなんて言うなら、私を咎めればいいです。校長にはその権利があります。

私を生かしたのは、まぎれもなく校長なのですから。』







けれど。


指を1本立て、ダンブルドアを真正面から見据える雹。


子供とは思えない静かさがあった。








『私は死なない限り、私の意志を貫きます』























カツンカツン。


校長室から繋がる廊下に靴の硬質な音が響く。





ダンブルドアは柔らかな椅子に座り、その音を聞こえなくなるまで聞いていた。

いくら耳を澄ましても聞こえなくなったとき、椅子に座りなおした。




銀色のひげを撫でつけ、その手を組んでため息をついた。



少し前に医務室で話をした少年の行く末を案じてのものではない。


ついさっきここから出た、

彼と似通っていて、それでいて正反対の存在である少女を。









「雹、君は自分を犠牲にしすぎる」









その呟きを聞いた人間はいない。

いるとすれば、同じ部屋で休む一羽の不死鳥ぐらいだろう。











――消え逝くものを繋ぎとめよ!






あの少女は言葉の通り、死に行くクィレルという人間を死から救った。


【繋ぎ止めた】と言った。

では、【何で】、【何を】、【どうやって】、【繋ぎ止めた】のか。




方法はやはり魔法だろう。

繋ぎ止めたのはクィレル。火を見るより明らかだ。





「・・・何を犠牲にした、か。」



できることなら、この予想は外れていてほしい。

そう思ったが。





死を確定された人間の霊魂を強制的に繋ぐ。

そんな莫大な術を使用するのに、なんのリスクも無しに成せるとは思えない。


たとえば、こんな例がある。






たとえば禁じられた、許されざる呪文の1つ、『死の呪い』は莫大な魔力が必要だ。

それに足りない人間が唱えたところでなにも起こらない。



分霊箱(ホークラックス)を造るのには、一人の人間の犠牲が不可欠。

人を殺害するときに起きる現象を利用した魔法なのだから。







雹が、どうやって――

名付けるなら――『繋魂術』を成功したのか。






ダンブルドアは、あの時の現象を思いかえした。


白と黒の瞬き。

切り離された『身体』と『霊魂』。



『仮の体』となったのは――

そして『仮の身体』と『霊魂』を繋ぎ合わせたのは――








音が消えた空間。

雹の杖に稲妻と炎が幾重にも巻きつき、おそらく『霊魂』がそれと触れた瞬間。


そして先ほど、彼女自身が見せたあの植物のようなもの。








クィレルの仮の体となったのは。

一年間を彼女と過ごした、雹の杖。



そして二つを繋ぎ合わせた物質は。






「自分の杖と、それ以上を犠牲にして――君は一体何を考えているのだか」






霊魂を司る『魂』。

肉体を司る『魄』。




二つがあって霊魂と肉体は繋がりあう。




話は簡単だった。


クィレルは魂が不足したため、霊魂が肉体から離れた。


そこで雹という少女は、


自分の魂を使い、クィレルの魂を補ったのだ。





並みの精神力でない。

また、なんという決意か。







雹の魂の補助を受け、クィレルの魂と霊魂は回復するだろう。


魔法の杖の力を借り、肉体を再製する事も可能かもしれない。


その頃には死喰い人の真っ黒に汚染された霊魂も浄化されているかもしれない。




「そして。誰が君にそんな事を決意させたか。それを彼は知らないはずだというのに」




年上の大人として、教師として、子供である生徒を見守っていくべきか。


ダンブルドアは1つうなずき、立ち上がり、一枚の羊皮紙の向かった。








今は、明日の終業式のことを考えるべきだ。






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あきゅろす。
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