桜 8 ≪捕まえろ!!≫ ヴォルデモートの叫び声の終わらないうちに、クィレルはハリーを捕らえるために行動した。 まずその手首をがっしりと掴んだ。 絶対に離さないよう、指と手のひら全体に力を込めるように。 「ッああああぁぁぁぁぁ!!!」 ハリーが悲鳴を上げた。 額の傷が痛むのだろう、顔をひどく歪ませて叫んでいた。 そして離れようともがく。 腕を振り回し、腕を戒める手を振り放そうと。 「うわあぁぁぁぁぁぁ!!、!?、???」 二人の体が離れる。 クィレルの手が、指が、焼け爛れ、じゅうじゅうと音を立てている。 「何だこの魔法は!?」 ヒィッと自分の手を上に向けるクィレルはまた、 ヴォルデモートに≪なにをしている、早く捕まえろ!≫と怒鳴られ、再度ハリーに飛び掛る。 しかしまたその手が離れる。 「うあああああぁぁぁぁぁぁ!!」 ぼろぼろと灰のようになった肉が音を立てずに散る。 ざらざらとした砂のようなものが零れ落ちていた。 (・・・そろそろか?) 黒い鳥は冷静に、あくまで冷静に戦況を見据える。 クィレルの両手は使えない。 ハリーは傷の痛みでぐらぐらしているが目は見えてるだろうからまだ大丈夫だろう。 自分の手を見て、そしてクィレルを見、はっと舌顔を浮かべた。 ≪それなら殺せ、愚か者、殺してしまえ!!≫ 狂ったように罵声が響く。 杖が無くても呪文を唱えられるのだろう、クィレルは死の呪文をかけようと手を上げようとした。 そこで。 終わった。 「ああああああああぁぁぁぁ!!!」 ハリーがクィレルの顔面を両手で掴んだ。 ぎゅっと目を瞑りたいところを必死で目を開け、一部始終を目撃しようとしていた。 ≪殺せ!殺せ!≫ ハリーの頭にはクィレルの悲鳴とヴォルデモートの叫び声が聞こえているぐらいだろう。 そこへ、「ハリー!!」と叫んだ声が重なった。 ダンブルドアだ。 姿現しを使えたのだろうか。 今だ。 黒い鳥が矢のように飛んだ。 ばらばらとクィレルの体が崩れ落ちる瞬間、ハリーの手が離れた。 ダンブルドアが離させたのだ。 (――私の体を巡るもの、廻るもの、繋がるもの、繋げるもの、そしてそれらを留めるもの――) 黒い鳥が、よく響く声で叫ぶ。 白く黒い閃光が、部屋中を照らした。 『――消え逝くものを繋ぎ止めよ!』 クィレルの体が形を維持しなくなったその瞬間と、その鋭い声が鳴ったのは同時だった。 黒い線が空間を切り裂き、白い線がその体を二つに引きちぎった。 目撃するということが出来たのはたった一人。 桜花雹。彼女が一人、そこに立っていた。 炎のようにうねる線。 雷のように走る線。 すべての音を、飲みこんだ。 [*前へ] [戻る] |