桜 10 −−−− 事件は終ったがその後の学校生活もあるわけであり。 試験が終った日から学期の最後の日までの一週間は皆がソワソワと落ち着きの無い日々だった。 まず想定外の獄中の人を中心に日刊預言者新聞はお祭り騒ぎを起こした。 その記事を読んだ、もしくは西の塔で吸魂鬼を見たという信憑性のある噂を仕入れてきた生徒たちが様々なおしゃべりをあちこちで繰り広げる。 そもそも動物もどきとはなんなのかという質問が飛び交うものだからいちいち授業を中断して説明しなくてはいけないのだとマクゴナガルがまいってたりもした。 ついでにあれこれとピーター・ぺティグリューとシリウス・ブラックの二人の学生時代を推測してそういえば学校の卒業生で彼らと同年代の教師がいたと思い出した生徒もいたりした。 そして彼らは闇の魔術に対する防衛術の教師のところへそれこそあれこれデリカシーのない質問をしに行くので、とうとうルーピン先生は授業が終ったと同時にどこかへ逃げるようになってしまった。 好奇心に負けてルーピン先生が何処へ逃げ込んでいるのか探す生徒はいたが、結局見つからずじまいだ。 実は魔法薬学の教室である地下室を避難所にしていたりするのだが、そのことは一部の教師しか知らない。 魔法薬学の教師が若干イライラとしている事に気がついた生徒もお祭り騒ぎのせいで少なかったし、理由にたどり着いた生徒は恐らくゼロだろうと雹は一人呟いた。 −−−− 「ルーピン先生が、辞める?」 学期末、試験の結果発表の後にそんな噂が流れた。 宴会前にざわつく中、生徒でありながら教壇に立ち教員会議に出席する権限を得ている雹はハリー、ロン、ハーマイオニーに呼び止められ個室に引っ張り込まれていた。 『ああ。仕方ないとはいえ、正体を生徒にばれてしまったからね。当然の成り行きだ』 「そんな!僕ら、絶対に人に話したりしないよ、ルーピン先生が辞めさせられる必要なんて無い!」 『声を落として。・・・それでもだ、彼が辞任されるのも今日の朝に決まったところだというのに、いつの間にか城中の全員の耳に入ってしまっているだろう?』 「それは・・・そうだけど・・・・・・」 『一年前に就任することが決まったときに彼は≪生徒にばれてしまったときにはその場で城を出て行く≫と教員達の前で誓っているんだ。たとえその生徒がどれだけ口の堅い子だとしても。起こってしまったのだからその言葉の通りに、というルーピン先生自身の判断だ。』 自分から辞表を提出なさったのだから、校長だって強く引き止めることも出来はしないだろう。 雹は宴会中に身につける予定なのだろう鈴の付いた髪紐をポケットから取り出しながら言う。 ハリーはそれが事件のすぐ後に見た夢の中に現れた白い片角の鹿に付けられていたものと似ている、と頭の隅で思った。 『ルーピン先生の在学中に秘密を知っていた動物もどきのご学友達というはその点はしっかり守っていたようだけど、これ以上隠し事を続けるのは彼の心身にも悪影響だ。』 「・・・・・・」 『のんびりさせてやりたいという思いも含まれているんだろう。彼らの意思も尊重して見送ってやってほしい。』 ぽん、とハリーの背中を叩いて付け足す。 『なに、大丈夫。脱狼薬の関係でホグワーツや校長とのつながりは切れることは無いし、夏休みはハリーの名付け親殿の裁判の関係者として逢う事も叶う。教師たちと三人がしっかりと口を閉じていれば』 だから絶対に口を滑らせないように。 雹は念を押すと、「せっかくの宴会だ、楽しくしよう」と手を振って部屋へと戻っていった。 ――充分彼らは幸せなのだ。学校でなくてもちゃんと会えるのだから。 ハリーにはそう言っているような気がした。 宴会のご馳走を想像したりテストの結果に悲喜交々する生徒たちの後ろで、3人は顔を見合わせて複雑な笑みを見せ合った。 宴会は真紅と金色のイミテーションで華やかに彩られてグリフィンドールを称える声で溢れた。 なにせ三年連続の寮杯獲得だ。クィディッチ優勝の活躍は目を見張るものがあったらしい。 夏休みをどう過ごすかなどやいのやいのという話をしながらのパーティは賑やかで皆がお祭り気分だ。 楽しい気分で夜は更けていった。 [*前へ] [戻る] |