桜 10 レギュラスはサクラの学生時代を知っている。 だからサクラの友人のスネイプやリリーと交流もあったし、あの悪戯仕掛け人の所業だって知っていた。 スネイプが彼らを忌み嫌っていることは承知していたし、それが自分の兄であったとしても当時の悪戯仕掛け人がスリザリン生にどんな仕打ちをしていたかを考えれば無理も無いことだと思っている。 だから驚いたのだ。 スネイプと自分の兄が、ぺティグリューという一人の裏切り者を捕らえようとしたことに。 「せっかくスネイプ先輩達が捕まえたぺティグリューを逃がしたって言うんですか!?」 「まあ言ってしまえばそうなるね」 わなわなと震え、レギュラスはリドルの言葉を反芻する。 学生時代に自分の兄を含む悪戯仕掛け人から受けた仕打ちを考えれば、スネイプの行動はなるほど立派だ。 公私混同ではないが大嫌いなはずの自分の兄が着せられた濡れ衣を引っぺがす手伝いをしてくれたのだから。 しかしリドルの様子にそれらを語っても無駄だとすぐに悟り、レギュラスは軽く着崩していた制服を直しポケットに仕舞っていたネクタイを首にしめて机の上に置いてあった杖をローブの内側に突っ込む。 「こうしちゃいられません、今すぐ――」 「どこへいくんだ?」 「決まっているでしょうぺティグリューを捕まえるんです!先輩の手伝いの一つもできずに何が後輩ですかッ!」 レギュラスがそう言って黒い子犬に変身し部屋の窓から飛び出して行った後も、リドルのにやにやと嫌な笑みは終らなかった。 その顔のままリドルはゆったりと椅子から腰を上げると、懐からなにやらもじゃもじゃした物・・・スカンクの死骸をいくつも取り出す。 それらは死んだばかりらしく、温かみが残っていた。 「さて、僕も準備をしたほうが良いかな」 一言のちに。 赤い瞳の少年は部屋から姿を消す。 代わりに一匹の白い猫がドアを開けて外の世界へと出て行った。 土の柔らかい地面を軽やかに走り、白い猫は学校の敷地の森へと向かっていく。 −−−− 戸を押し開けた先にも玄関ホールにも嬉しいことに誰も居ない。 まあ7時になる前なので人が少ないのはおかしくは無いのだが。 白い猫――リドルは箒置き場をぴょいと飛び越えて石段を避けて禁じられた森のほうまで進む。 朝の涼やかな風が毛皮をなでる感覚は心地が良い。 「・・・・・・」 途中で森番の犬がこちらを威嚇してきたが逆に睨みつけてやる。 尻尾を股の間にしまいこんで小屋まで走っていった後姿はとても愉快だった。 水色の空の隅っこで、白い満月が雲に紛れて消えていく。 人が近くにいないことを確認した後に、リドルは元の13歳ぐらいの少年に戻った。 杖を取り出してくるりと一回転。 「さて。出てきてくれるか?クロック」 カラスのような声が応えた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |