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ガシャン、というのは水の入っていない金属コップが床に落ちた音。


体を動かすことすら難しく、声を上げて呼び止めることができないと判断した末の行動だった。



___案の定、というか思惑通り、というかこっちに気が付いてくれた。




「…あらあら、起きれたの!?」

『……っ』



そっと体に触れられ、やさしく支えてもらったが、体が硬直していた。

……ちょっとまて。

さっきの会話も含めて、この人らが話してるのって英語…。



「無理して起きちゃだめよ…そう、ゆっくり……」


『…あ、ありがとう、ございます……』



切れ切れに呟いた台詞は、やはり英語っぽい。

……おいおいおいおいおい。

DVDの言語機能じゃあるまいし、なんでいきなりこんな……。




『えっと……。』

「ん?」

『あ、の。コップ、落しちゃってすみません……。』

「そんなこと気にしなくていいわよ。それよりしゃべっても大丈夫?どこも痛くない?」

『大丈夫、です。』



頭をこれ以上ないぐらいに回転させる。

カーテンの向こうから走ってきた女性は、本当にマダム・ポンフリーなのだろうか。

ここは、ホグワーツなのか。


もしそうなら、これはハリー・ポッターの世界だ。

そしてこれが現実なら、トリップというものか。

自分は物語の中に入り込んでいるのか?



『あの、ここは……。』

「ここはホグワーツじゃよ」



銀色の長い口ひげをたらした老齢の男性が立っていた。

聞き覚えが無いことはない。そしてこの口調。

…まさか。



『ホグワーツ…ですか。はあ……。』


「ちょ ちょっと!あなたどうしたの顔が真っ青よ!?」

『い、いえお気遣いなく。…あ、あそこにある箱はもしかして私の……』

「これの事かね?なにやらいろんな本らしきものが入ってる。君のまわりに落ちていたのを取りあえず集めて持ってきていたのじゃ」

『そ、れ、私の持ち物です……。』




箱と言うのは図書を整理した時の段ボールだった。

ハリー・ポッターの文庫版小説もちゃんと入っていた。

…わからないが、何らかの原因の元に関係ないことも無いだろう。



「それ、見せてもらったけど何の本なの?読めなくって……。」

『物語とか…あ、これ日本語だから……。』

「きみは日本人かい?」

『あ……そうです。』

「ふむ…そうか。」



そうだった。

助けてもらった御礼どころか、名前すら名乗ってない。

気付いた彼女は、ベッドにもたれながらも挨拶をした。



『すみません。申し遅れました。私の名前は桜花雹です。助けてくださってありがとうございまし……痛っ』

「ほら無理しちゃだめよ、貴女は安静が必要なんだから」

『すみません…大丈夫です。ありがとうございます。』

「気にすること無いわよ。えっと…桜花。」

『あ、桜花、は苗字です。日本の。』

「あらそうなの?」

『雹と呼んでください。えっと…』

「ああ私はポンフリーよ。ここの看護師をしているの。」

『そうでしたか。マダム・ポンフリー。そしたら……気になってたんですけど、そちらはもしかして、ダンブルドア校長でいらっしゃいますか?』



2人ともちょっとの間、驚いた顔をして見合わせた。


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