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そんなこんなで、大量の宿題とクィディッチの練習とパトローナスの特訓をこなすハリーの知らないうちに、時は二月になっていた。

二月になったからどうと言うわけでもないが、レイブンクローとの試合が近づいてきていることは重要だ。

この試合を落とせばグリフィンドールが優勝戦線から脱落するのは明確。



ハリーが新しい箒を注文していないと思っている寮の生徒は心配して注文しないのかと言う。

そこは要らぬ心配だ。

すでにハリーは最高の箒を手に入れている。

だがハリーには炎の雷があるから勝ちはすでにこちらにあるとウッドたちは言うがハリー一人に期待を乗せられてはたまったもんじゃない。



だって競技場には、いつ吸魂鬼が現れるかわらないのだ。

そしてハリーは吸魂鬼対策の守護霊の呪文を完全に習得できていない。

人と恐怖の対象が半歩ずれているハリーにとって吸魂鬼は天敵だ。

だからこそ対抗策である守護霊の呪文を習得しなくてはならないのに、いまだ思うように進まない。



最初からは進歩して、ボガート扮する吸魂鬼相手に白いもやもやを繰り出すことは出来るようになったが、それはあまりに儚げで、本物の吸魂鬼を追い払ってくれるとは思えなかった。

ハリーには原因がわかってた。

母と父の声を、聞きたいと心のどこかで思っているからだ。










≪――、――――!――≫



壊れたラジオのような叫び声が頭の中に響く。



≪―リリー!ハリーを連れて逃げろ!あいつだ!行くんだ、早く!僕が食い止める――――≫

≪――――≫


誰かがよろめき動く音。

ドアの開くバーンという音。

誰かの甲高い笑い声。

誰かの倒れる音。









ハリーは自分に、両親はもう死んだんだと言い聞かせた。

聞きたいと思うな、あれは幻聴だ。



そして、銀色の大きな影が、杖の先から飛び出した。










「高望みしてはいけない。十三歳の魔法使いにとって、例えぼんやりした守護霊でも大変な成果だ。もう気を失ったりはしないだろう?」



四回目の訓練の日。

ルーピン先生はハリーをたしなめるようなことを言った。

ハリーはがっかりしながら言う。



「・・・僕、守護霊が――吸魂鬼を追い払うか、それとも、連中を消してくれるかと――そう思ってました」

「本当の守護霊ならそうする。しかし、短い間に君は随分できるようになった。次のクィディッチ試合に吸魂鬼が現れたとしても、暫く遠ざけておいて、その間に地面に降りることが出来るはずだ」

「あいつらがたくさん居たら、もっと厳しくなるって、先生は仰いました」

「君なら絶対大丈夫だ」



ルーピン先生はハリーに微笑み、鞄からビンを二本取り出した。



「さあ――ご褒美に飲むといい。『三本の箒』のだよ。飲んだことはあるかい?」

「バタービール!うわ、僕これ大好き!」



幸福な気持ちでハリーはそれの蓋を取って飲み始めた。

それを見てルーピンは嬉しそうに笑った。



「それじゃ、レイブンクロー戦でのグリフィンドールの勝利を願って!――おっと、先生がどっちかに味方いてはいけないな・・・・・・」

「そうなんですか?」

「贔屓しているといわれてしまうだろう?つねに公平に、中立の立場にいなくてはならないんだ」



ハリーはそれを聞いて、スネイプはどう見てもスリザリン贔屓だよなと頭の中で思った。



「けど、雹は――桜花教授は、グリフィンドールのサポートを――」

「ああ、それは他の先生方も知っている。――たしかに贔屓しているといったら否定できないが、彼は教師であると同時に生徒でもあるからね。

それに彼は元々しっかりしているから先生方に気に入られているし信頼もある。やっていることは代理審判に近いし、グリフィンドールの生徒だけの面倒を見ているわけでもないらしいからね。だから皆黙認している」

「・・・・・・」





ホグスミートで、ずっと黙り込んでいた友人の顔を思い浮かべる。

あの後、マクゴナガル先生と何を話していたんだろう?



その後は黙ってバタービールを飲んでいた。

だがハリーは口を開き、前から気になっていたことを聞いた。



「吸魂鬼の頭巾の下には何があるんですか?」

「・・・・・・うーん・・・・・・」



ビンを机に置いて、ルーピン先生は言った。



「本当の事を知っている者は、もう口が聞けない状態になっている。つまり、吸魂鬼が頭巾を下ろすときは、最後の最悪の武器を使うときなんだ」

「どんな武器なんですか?」

「『吸魂鬼のくちづけ』と呼ばれている」



皮肉げな笑みで、説明する。



「吸魂鬼は、徹底的に破滅させたい者に対してこれを実行する。多分あの下には口のようなものがあるのだろう。奴らは得物の口を自分の上下の顎で挟み、そして――餌食の魂を吸い取る」



「えっ――殺す――?」

「いや、そうじゃない。もっとひどい。魂が無くても生きられる。脳や心臓が動いていればね。しかし、もはや自分が誰なのかわからない。記憶も無い、まったく・・・なんにもない。回復の見込みも無い。ただ――存在するだけだ。カラッポの抜け殻となって。魂は永遠に戻らず――失われる」



そしてルーピンは言葉を切り、一口バタービールを口に含んだ。



「シリウス・ブラックを待ち受ける運命がそれだ。今朝の『日刊予言者新聞』に載っていたよ。魔法省が吸魂鬼に対して、ブラックを見つけたらそれを執行することを許可したそうだ」







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あきゅろす。
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