□勝手にしてくれ
*
「・・・。」
終始無言。
無言。無言。無言。
俺達は無言で帰り道を歩いている。
視界が狭まっていてあまりわからないのだが、何だか回りの視線がこちらに向いているような気がする。
それも、憐れみと同情と奇異が含まれるような類のものだ。
特に最後の奇異的な視線が多いだろう。
赤羽はそんな視線に気付いてないのか、それとも慣れているのか平然としている。
背筋も毅然と伸びてるし、何よりもスタイルが良い。
猫背な俺とは比べものにならないぐらいの威厳さがその容姿から醸し出されている。
流石ここらへんで恐れられている事はある。
同じ男としてここまで体格が違うのかと思うと、神を愚弄したくなる。
神様のバカ!アンポンタン!
そんな神様に暴言を吐いている八つ当たりな俺の方に、赤羽が視線を寄越した。
俺は再び目を逸らした。
いきなりこっちを向かないで頂きたい。
危なく目が合うとこだったじゃないか。
昔、裕太に
「昭宏、肉食獣に出会ったら目を逸らすんじゃないぞ。
目を逸らした瞬間襲われるからな。
でもな、獣の中でも唯一絶対に目を合わせてはいけない種類がいるんだ。昭宏それが何だかわかるか?それはな、不良だ」
と教えて貰った事がある。
もしかして、神様を冒涜していたからバチが当たったのかな?
神様、すみません。
もうバカとかアンポンタンなんて言いません。
むしろアンポンタンなのはこの俺です。
ですのでどうか…、どうか俺を助けて下さい…!
だが、俺の悲痛な願いは虚しくも赤羽の声でかき消された。
「…お前ん家はどこだ?」
何の前触れもなく降ってきた言葉。
その言葉に頭を打ちのめされる衝撃が走った。
この人俺ん家に来る気ですか!?
何というサプライズ。
まさに神様からバチが当たったというのはこの状況の事を指しているだろう。
当たり前に顔面が蒼白になったのは言うまでもない。
「…俺ん家何もないですよ!?
何の面白味もクソもありませんよ!?むしろクソですよ!?」
「・・・?」
「…そ、それに今日、俺ん家母親がいるんです…!
女手一つで育ててくれた母だけは巻き込みたくないんです…!」
「・・・?」
半泣きで見逃してくれと訴える。
もう、赤羽の前ではプライドなんて紙切れに等しい。
変にプライドを見せて殺されるよりは幾分かマシだ。
そんな必死な俺の様子を見て赤羽は何故か首を傾げて目をパチパチと瞬かせている。
訳がわからないといった感じだ。
俺でさえも何言ってるのか訳がわからない。
だけど、母親だけには迷惑を懸けたくないという一心が俺の口唇を動かす。
まるで腹話術の人形のようだ。
すると、赤羽は焦った様子で口を開いた。
「……お、落ち着け」
ごもっともなご意見である。
俺も出来る事なら落ち着きたい。
でも、無理だ。無理なのだ。この状況で落ち着ける筈がない。
落ち着けていたら今頃、俺は全力疾走であなたから逃げてるよ。
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