綾辻まゆり(あやつじ まゆり)
「では、雨ヶ崎高校と茜空高校の交流会を開催します。よろしくお願いします!」
「「「「よろしくお願いします!」」」」
こうして交流会が始まった。
挨拶をしているのは向こうの部長だろうか。
高い、女性らしい声の人だ。
「まずは来校していただいた、茜空高校の皆さんに歌ってもらいます。いいですか?」
「はい、全然オッケーです」
丁寧な言葉を使っているが、フレンドリーな様子で末永さんは返した。
部員達は歌を披露するために舞台へ並ぶ。
指揮の俺は指揮台に、つむぎはピアノについた。
俺は指揮台に登って全員の様子を見る。
あ、紹介しなくちゃいけないんだった。
「雨ヶ崎高校の皆さん、おはようございます。交流会に呼んでいただきありがとうございました。まず曲の紹介をします。この曲は―――」
末永さんに教えられた挨拶をペラペラと吐き出していく。
昔から人々の前でなにかを読み上げたりするのはあったから、今更緊張などしない。
「では、お聞きください」
俺は一礼してから振り返る。
部員が皆落ち着いたようすで構えていた。
サッと俺が手を上げると、皆が足を開く。
このときに手を下ろしたらどうなるか、やってみたいと思うのは心情か。
……まあいい、曲に入ろう。
俺はつむぎと目線を交わした後、腕を振り始めた。



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俺たちの歌が終わり、次は向こうの番だ。
既に歌は始まっている。
キレイに揃った歌声、微動だにしない姿勢。
もう少し楽にした方が躍動感があっていいと思うが…。
しかしそんなことより俺の注目はピアノにあった。
丁寧に奏でられる旋律は美しく、彼女自身楽しそうに周りを見る余裕がある。
黄色いカチューシャが彼女の表情にぴったりだった。
(すげぇな…)
俺は確実に彼女に心惹かれていただろう。
(………………)
じっ、と聞いているとすぐに歌は終わってしまっていた。
「ではお互いの歌も披露し合いましたし、交流を開始しましょうか」
「じゃ、まずは学年ごとに分かれてしよっか。一年生はあっちで、二年はそこ、三年はこの辺で」
予定通りの進行なのだが、なぜ末永さんが仕切っているのだろうか。
そんなことより、もう皆移動を始めている。
俺も指示された場所に向かった。
「二年だけで…か」
「質問があればどんどん話して、交流を深めていきましょう」
二年の内の一人が言った。
次期部長かなにかだろうか。
しっかりした人だ。
俺は真っ先にカチューシャをしたピアノの人のところへ行った。
「こんにちは」
「へ?……あ、こんにちは」
話しかけると、彼女は戸惑いながらもこちらに笑顔を向けた。
他の連中もまだまだ緊張してその場に固まっていたのが見えた。
「ピアノ、すごく綺麗な音色でした。感動しました」
「あ、ありがとうございます!」
褒められて嬉しかったのだろう。
先ほどの愛想笑いから、照れたような笑みに変わった。
「いつからピアノを弾き始めたのですか?」
「私はここに入ってからで…」
(それでここまで上達するか…!)
俺は本気で驚いてしまった。
二年の腕とは思えなかったが…。
「すげぇな…」
気付くと、俺はそう溢していた。
それが聞こえたのか、彼女は本当に嬉しそうに頬を染める。
「あ、名前聞いてもいいか?」
「!えと、あ、綾辻です。綾辻まゆり」
「そうか。良い名前だな」
俺はそう言って笑みを浮かべてみる。
綾辻…さん、綾辻さんも応えるように笑ってみせた。
「あなたは?」
「俺は京条。京条凛人」
「!」
俺が名を述べると彼女は驚いたような表情を浮かべた。
しかし俺はその反応は予想通りだ。
茜空高校の京条凛人は天才としてあまりに有名だから。
容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能と来たら噂は校内だけでは留まらないわけだ。
きっと彼女も、俺の噂を聞いたことがあっただろうことは容易に想像できる。
「け、京条ってあの天才の!?」
「……まあ俺だろうな」
「…すごい!!」
やはりな。
「俺のこと知ってたんだな」
「茜空の京条凛人と言えば誰でも知ってるよ!でもまさか合唱部だったなんて…」
うん、意外そうだ。
「京条くんの噂はたくさんあるよ。コンクールに応募すれば必ず入選する、とか色々ね」
俺の噂が立っているのは知っていた。
が、内容を聞くのは今日が初めてだった。
俺は少し噂の内容が気になった、ので、訊ねてみる。
「そうだね〜。フレンチトーストが好き、とか、月の裏に移住する計画に加担してる、とか。ありそうなのから突飛抜けたのまであるね」
月の裏に移住って…。
それについては苦笑いを浮かべるしかなかった。
ちなみに俺はフレンチトーストは嫌いだ。
「他に、怪しい部に出入りして戦争の兵器を作ろうとしてる、とか」
ギクッ!
そんな擬音が似合うだろう、今の俺の反応は。
図星すぎる。
「ま、まあいい。俺の噂はこの辺にしとこう…」
他にどんな噂があるのか、想像するだけで背筋が寒くなった気がした。

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