伊藤(いとう)
最終日の最後のテストが終わった。
俺は早々に片付けをして部室に向かう。
俺が部活をやっていると思わなかったか?
残念ながらやっている。
暇潰しがてらにいろいろと、な。
今日は軍事機械研究同好会だ。
部の内容は名の通り。
軍事機械の研究。
あわよくば新兵器を開発してやろうと言う変わった連中の集まりだ。
アイデアは出せないが、理論などなら彼らの力になるらしく、俺はちょこちょこそこに通っている。
俺を辞書かコンピューターくらいと思ってるんじゃないかと疑うような扱いを受ける。
まあ、いいんだけどな。
他に俺が通うのは合唱部。
本当に意外そうだな。
ちゃんとした理由はある。
詳しくは、今はまだ言わないが探し物をしている。
その探し物を探すのに一番近道なのが合唱部と言うことだ。
絶対音感なんてものはないが、鍛えればそこそこに音はわかるようになった。
これも探し物のためだ。
他にもいろいろとあるが、それは後々わかるだろう。

コンコン

扉を軽くノックする。
すると中から声が聞こえる。
「誰だッ」
「京条だ」
「合言葉を言えッ」
やたらと力強く声を放つそいつは、この同好会のメンバーの一人だ。
(確か今は7月の2週目の4日目だから…)
俺は合言葉の鍵を頭に思い浮かべて、それを述べた。
「いちいちしてるともう来んぞ」
「よし、はいれ」
ガチャ、と鍵が開く。
俺は鍵の開いた扉を開いて部屋に入る。
「京条、今日もまた面白い組み立て方をしてきたな。しかも冗談を交えてとは、さすがだ」
入ってすぐに見張り役の、さっき声しか聞こえなかった男が言う。
手には紙とペンを持っていて、俺の言う合言葉をメモしていた。
「冗談だといいな」
「……え?」
微笑を浮かべてそう言うと、奴は苦笑いをして奥に座った。
「伊藤!どこにいる!」
俺はここにいつもいる奴の名を叫ぶ。
伊藤。
性別は男。
学年は俺より1つ上の3年。
ここ軍事機械研究同好会の会長だ。
『こっちだ京条ー!来てみろ!面白いの思い付いたぞ!』
別室への扉の向こうから声がうっすら聞こえた。
奴はそこか。
俺は頭を掻きながらそちらへ行った。
「なんだ、面白いのってのは」
扉を開いて、伊藤の姿を確認せずに言う。
言ったあとに俺は奴の書いている図式を見て驚いた。
「……へえ。面白そうじゃないか」
「だろ!?」
伊藤がダサイメガネをずらして、笑顔一杯にそう叫ぶ。
正直に言おう。
気持ち悪い。
「新しい兵器なんだ!こいつができれば核兵器なんか屁でもねぇ!」
「だろうな。いろいろと足りてないが、原理はわかる」
俺がそう言うと、伊藤はズレたメガネを戻した。
「やはり俺は天才だッ!ハーッハッハッハ!」
手を広げて天を仰ぐ。
ダメだ、見ていたらあほが伝染る。
「で?肝心の始めのとこにはなにを打ち込むんだ?鉛玉とかじゃないだろうな」
「うぅむ…」
俺が訊ねると、意外にも伊藤は真面目な反応を示した。
「そこなんだ。そこになにをぶちこむかが決まらないんだよなぁ……」
どこにぶちこむか、の説明をする前に伊藤の考えた兵器の原理を説明しよう。
まずなにかしらの刺激を始めの部分に与える。
始めの部分ってのはなんでもいい。
ただの打撃でも、熱エネルギーでも磁力でもいいだろう。それを受ける媒体はまたあとで考えればいいか。
そいつに刺激を与えたあとは次の行程。回す、だ。
始めに与えた打撃やら熱やらをのエネルギー高速で回す。
その方法を伊藤は考えていないが、あとで俺が提案してやろう。
そうして高速で回転させていると、少しの刺激が増大なエネルギーとなる。
で、最後にそれを打ち出して攻撃となる、らしい。
今伊藤が悩んでいるのはその始めの刺激を何にするか、ということだ。
「まあ今浮かばないなら考えても仕方ないだろ。まずは1%の閃きだろ?」
「……うむ。そうだな」
この言葉は伊藤が大好きな言葉の1つだ。
努力が嫌いなくせによく言うぜ…。
「京条も考えておいてくれ。俺だけじゃ難しいかもしれん」
「はいはい。で、伊藤」
そこで俺はやっとここに来た用事に入ることにした。
暇潰しでも多少の用はあるのだ。
「なんだ?」
「この間調べて欲しいと頼んだあれ、どうなった」
「ああ、あれか」
こいつらは一端の軍隊みたいに諜報部などの情報収集班を作ったりしている。
生意気だが、なかなかに優秀で使い勝手がいい。
これらがあるから俺はこいつらのコンピューターになることも嫌じゃないわけだ。
「今度合唱部が交流する相手校のピアノ担当の子が、条件に合致した」
「今度の交流は……今週の土曜か」
「一回話してみろよ。もしかするとそうかもしれないからな」
「ああ」
土曜か…。
(予定は入っていない…行くか)
その為には明日、合唱部に顔を出す必要があるな。

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あきゅろす。
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