見える先に向かうだけ!
ホントは足跡見ただけ
「北村ァァァアアア!!」
道場内には誰もいないのだが、叫ぶ。
「出てこいやこのボケぇぇええええ!!」
叫ぶ叫ぶ、地下から出てきてから数分間ずっと叫び続けている。
(あ、綾戸さん、あの男はここにはいませんって何度も…「オラあああ!出てこいぃぃぃいいい!!」……うぅ)
楓が少し涙目になりながら俯いている。
「もういい!探しに行くぞ!楓!!」
祐樹は地団太を踏んだ後、楓の方へ振り向き、言った。
「おい楓、早く行くぞ……ってなに泣いてんだよ」
「うぅ…ひっく……グスッ」
祐樹が彼女の顔をあげて見ると、真っ赤に目を腫らして泣いていた。
(だって、綾戸さんが、私の話を、聞いてくれないからぁ、)
そう伝えながら、尚泣き続けている。
「す、すまん。なんか腹立って我を忘れていた」
とりあえずしゃがみ込み、彼女の頭を撫でる。
「うぅ…っ」
しばらく祐樹に撫でられながら泣き続けた。

「落ち着いたか?」
(……はい、すいませんでした。あんなことで泣いてしまって)
楓は恥ずかしそうに顔を俯けた。
「そっか。よし、北村を探しに行こうぜ」
彼は優しく微笑みながら楓の手を引く。
「立てるか?」
(…はい、大丈夫です)
楓は祐樹の手を借り、立ちあがる。
が、すぐに倒れてしまった。
「大丈夫か?!」
(す、すいません。やっぱり足が痛くて……)
「はぁー、しゃーねーな」
祐樹は楓を座らせ、背中にしがみつかせた。
「しっかり捕まれよ」
(え?あの、いいんですか?)
彼女は遠慮がちに伝える。
「なに気にしてんだ、お前大して重くないし、むしろ軽いから余裕だって」
祐樹にそう言われた楓は、顔を赤くしながら背中に捕まった。
「よし、じゃあまずどこから……あ」
(どうしたんですか?)
「完ッ全に忘れてた。じーちゃん達助けに行かねぇと」
あまりにも大変なことを忘れていた。
祐樹は楓を背負ったまま地下へまた入っていった。
「真っ暗で見えねぇー。楓!明かりをくれ!」
理不尽だ。
案の定楓が言い返した。
(私はそんなことできませんってー)
「あ、そか。ならしかたない」
彼は目をつむり額の前に雷を貯める。
「よし、これで見え…ないな。近すぎる」
額の前のそれをもっと前に遠ざけた。
すると丁度良いくらいの明るさで道が照らされる。
「あれろ?」
祐樹が素っ頓狂な声をあげた。
なぜなら、
「道が…わかれてる?」
そう、出てくるときは気づかなかったが、地下への道は二手にわかれていたのだ。
(えっと…どうするんですか?)
背中に乗る楓が伝える。
「俺達ってどっちから来たんだろう……あ」
祐樹は下を向いたとき、何かに気づいた。
(どうしたんですか?)
「よし、左だ」
そういって右の通路へスタスタ歩く。
(な、なんで左なんですか?)
間違っているのではないか、楓はそう言いたいのだろう。
「考えてもみろ、俺達は毎回最後の真っ直ぐの道に入る前に右に曲がっているんだ」
(ええ、そうですね)
「右に曲がってるっことはだ。こっちから入ると左に曲がることになる、わかるか?」
(はい)
「真っ直ぐの道に出たとき向かいの壁には曲がり角はなかった」
楓は思い出しながら頷く。
「そんで、あの入り組んでグッチャグチャのあの広さが入るのは、必然的に左の通路になるんだよ」
(そうなんですか……あ、そうですね!)
フフン、と祐樹は鼻を鳴らした。
(綾戸さん結構勘が鋭いんですね!)
「ハッハッハー、祐樹さんに畏れ讃えよ膝まずけー」
モゾモゾと背中の楓が降りようとする。
「冗談だからな?いちいち従う必要ないから」
(そうですか)

しばらく適当に歩くとうっすら光が見えてきた。
砂埃が少したっているのか光が曇っている。
しかも、さっきからずっと低い音が響いていた。
「ん?なんかあるのか?おっし、一応あっちの曲がり角まで行ってみようぜ」
(ハイ!)
楓が嬉しそうに腕を上に突き上げた。
「はい絢音さん意見をどうぞ」
(あ、そのハイじゃないです)


最後の抵抗と言ってから数分、まだ粘るのかこのジジィ!
「死ね!死ねぇ!」
北村は動揺しながら腕を振っていた。
「くッ、年寄りに過激な運動をさせるとはの…」
覇狗が荒い息をしながら北村の攻撃を避ける。
「は、はは!これを一発喰らえばすぐ楽になれますけどねェッ!」
北村はさらに腕を振りかぶりブンッ、と振る。
「ッ!!」
間一髪、覇狗は紙一重で避けた。だが、
「クソ!壁に追いつめられたかッ!」
彼は悔しそうに老いた手を握り、壁を殴りつけた。
「フフフ…とどめですよ!」
北村の頭から角のようなものができ、頭から突進する。
(ふン、わしの出番はここまでじゃな…大介、覚悟するといい!!)
祖父はクワッ!と目を開く。
その時、
「待てやこのボケがァァァアアッ!!」
大きな、本当に大きな声が響く。
だが北村は止まらない、いや、止まれないのだ。
車は急に止まれない、走り出した北村も止まることが不可能なのだ。
「待てって…言ってんだろォ!!」
北村の行く先に氷が立ちふさがる。
難なくそれを壊しつつもまだ走る。
「終わりです、師匠!」
グシュッ
北村の角が何かに刺さる。
だが、それは祖父ではない、ましてや氷でもない。
「土…壁?」
北村は予想しなかった事態に言葉を失いかけた。
彼の予想の間違い、それは先程の氷の壁があれで終わりではなかった事。
「どうですか?氷のジャンプ台は」
意識を取り戻した優奈が言った。
祖父が目の前にある氷をみる。
それは北村の走る方から反り上がり、スキーのジャンプ台のようになっていた。
「な、に…?」
北村は祖父を殺すことに集中するあまりに他のことは見ていなかった。
牛が赤い布の色に興奮して追いかけるように、猪突猛進、下にある氷に気づかず駆け登り、見事に祖父の頭上を越え、後ろの壁に突き刺さった。
「フフフ…面白いことをしてくれますね……」
「当たりめーだよ」
意識を取り戻した茂が立ち上がりながら言った。
「当たり前…だと?」
北村はつい聞き返す。
「だって…」
「なぜなら…」
茂と優奈が声を合わせ、
「「ひろ(くん)だもんなっ!」」
二人の視線の先、そこには綾戸祐樹が堂々と立っていた。
その背中には、先ほどの大声で耳がおかしくなった楓が頭をフラフラさせながらいた。
「フフフ…やはり出てきましたか…」
「当たり前だ、俺を誰だと思ってやがる」
(綾戸さぁん今どんな状況ですかぁ?)
へにゃー、なんて言ってる楓が伝える。
「…お前、シリアスな感じにする気ないだろ」
「ふゃ〜」
「(…あの子誰?)」
「(さ、さぁ…)」
こそこそと優奈と茂が話す。
「後で説明してやるわぃ」
二人の頭をガシッと掴みながら祖父が言った。
「どーでもいいけどさァ、さっさとそこから頭ひっこぬけよ」
祐樹がめんどくさそうに北村に言う。
北村も言われてすぐ角を引っ込め、壁から抜けた。
「祐樹君…君には驚かされました。楓さんも助け、この三人も助けにくるのですから」
北村はバカにしたように言う。
「あーもういいよ、そういうの。さっさと始めねぇか?」
対して祐樹は少し楽しそうに返す。
「いいでしょう…ならすぐに始めましょう」
北村の全身が二回りほど膨らむ。
「あ、楓降りてくれ。じーちゃんも、俺たちから離れて」
祐樹はすぐに四人を遠くへ行かす。
「巻き込まないためですか」
「まぁな」
言って祐樹も少し集中する。
深く深呼吸をした後。
「さあ北村!互いに普通の人間じゃないんだ!超常現象起こしまくって戦おうぜ!」

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