見える先に向かうだけ!
もう少しで茂を追い抜けるかもな
ジリリリリリリリ!!!
6時間が経過したことを告げる時計が大きな音でなりだした。
「ん、やっとかー」
茂が一番に滝から出てきた。
「おーい、祐樹、終わったぞー」
茂が祐樹の方に向かってそう呼ぶ。だが彼は出てこない。
茂は首をかしげ、もう一度呼ぶ。今度は叫びに近いくらいの大声で。
「おーーーーい!!終わった、ぞーーーー!!!!」
「茂うるせー。んな大声出さなくても聞こえるっての…」
不機嫌そうに祐樹が返事を返し、滝から出てきた。
「 あれ?もう6時間たったのか?」
「ああ、とてつもなく長い時間だったような気がする……」
茂がそう呟くと祐樹は首をかしげ、そしてこう言った。
「俺には10分程度にしか感じなかったぞ?」
「はァ!?」
茂は驚きの声をあげ、同時に足を滑らせその場に盛大にこけた。
「いつつ……って、お前それ本当かぁ?」
茂は疑うような目で祐樹を見る。というよりこの目は明らかに疑っている。
「なんだその目は。ホントだよ、俺にはなんでこんなに早く外が明るくなってるか不思議なくらいだ」
「へぇー、そーなのかー」
「お前信じてないな?まあいいけど。さって、家へ帰ろうぜ」
「おう、競争だ!」
「ガキじゃねえのにそんなことするわけないだろ?」
「いや、でもここで俺が走り出したらお前、俺のこと追いかけて走ってくるんじゃないか?」
「ないない、お前が走るなら勝手に走ってろっての。俺は誰が走ろうと追いかけたりしねえよ」
「ケッ、つまんねーのー」
そんなこんなで二人は家へと向かい歩きだした。
その頃……
「ックシュン!誰か噂してるのかなー、なんちゃって、あはは」
図書館で本を読んでいた紗耶にそんなことがあったとかなかったとか。

「ふむ、トランス状態じゃの」
昼食の席で祖父はそう言った。
「トランス状態?」
二人は声を揃えて質問を返す。
現在正午ちょうどの時間。二人は祖父に祐樹が感じた6時間がとてつもなく短かったことについて話を聞いていた。
「あ、私知ってるよ。トランス状態ってすごく集中してる状態のことだよね?」
優奈は祖父に再び話を振った。
「そうじゃ、優奈の言った通りトランス状態とはとても集中しているということで間違いはないじゃろう。トランス状態になっている間は時間の流れがとても早く感じるのじゃ」
「つまり祐樹はその、トランス状態になっていて、時間がとても早く流れたように感じた、っということですか?」
「そういうことじゃ。しかし、まだ二回目じゃというのによくトランス状態に入れたの。優奈でも五日はかかったというにの〜」
祖父は感心したように頷き、ご飯を口の中にかき込んだ。
「んで?そのすんげー集中状態になるとなにがどうなるの?」
祐樹は質問をしながら味噌汁を飲み干す。
「簡単なことじゃ。精神力が成長するんじゃよ。
このペースでいけば後二日くらいで茂を追い抜けるかもな」
「なっ!もう俺追い抜かれちゃうんですか!?」
「当たり前じゃ、なんせわしの孫じゃ、茂ごときに負けるわけがなかろう」
「そ、そんなぁ……」
茂は野菜炒めに顔をつっこみそのままつっ伏してしまった。
「ああああ!!俺の野菜炒め!!テメェ……」
「さて、おもいのほか祐樹の成長が早いようじゃ。あと三ヶ月ほどでこの修行も終わりそうじゃの」
「あと三ヶ月……はぁ。それで?午後はなにするの?」
祐樹は北京ダックを口に含んだままそう言った。え!?北京ダック!?
「午後のメニューはこれじゃ」
そう言って祖父は石焼きビビンバをどかし、開いたスペースに紙をおいた。
[今日のメニュー]
・腕立て伏せ5000回×2
・腹筋6500回×1
・山の周り40周(一周43km)
※これを三時間以内にできなかった場合、滝行八時間じゃ!
「………え?」
祐樹は目を疑った。無理もない、書いてることが無茶苦茶なのだ。一般人にはまず不可能なことがそこには書かれている。
「あ…え…。そ、そうだ、俺左肩まだ怪我治ってないんだったー。あーイテー」
祐樹は左肩を押さえその場にうずくまった。
「さて、今から三時間じゃぞ?監視として優奈をつけるからごまかしは効かんぞい」
「うぇ!?今から!?や、やべっ!!」
祐樹はそう叫び、家の外へと駆けだしていった。そしてその後を、氷の上で踊っているような華麗なステップで優奈は追いかけていった。

--三時間と少し後--
「ク、クソ!何で俺がこんな目に…!」
結果的に彼は全くもって間にあわなかった。
彼がこなしたのは山の周り23周、腕立て伏せ7023回、腹筋2回、常人では到底不可能な内容なのには変わりはないが、メニューには間に会わなかったので今は滝に打たれている。
「ひろくーん、ちゃんと集中しないとダメだよー」
まだ優奈は祐樹の監視を続けているらしい。
「くっそ……」
諦めたように祐樹は目をつむり、集中状態に入った。

祐樹が集中し始めてから数時間後、祐樹の頭の中になにかの光景が流れ始めた。
「助けて!助けて!いやあああああ!」「やめろ!!くそ…こうなったら!」「これで終わりだ!【絢音楓】!!」
聞き覚えのない少女の声、野太い男の声、そして自分の声。
まったくわからない光景が、声が、確かに祐樹の頭に流れている。
ハッ、と彼が目を開くともう、すでに八時間が経っていた。

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