見える先に向かうだけ!
守護者集め、雷くん
翌日、祐樹は茜空駅に来ていた。
メンバーは祐樹と真乃華と楓、その他守護者だ。
紗耶や真奈美は違う用事……というか、無断で出掛けた罰が下っているらしい。
橘はそれに付き合って、ここにはいない。
「じゃあ雷くんはどこだ?」
「ふむ、わしじゃなくこやつにやらせた方がいいな」
そう言って楓の肩を叩く。
和風の赤い着物の真乃華はこの場では浮いていた。が、誰も気にしない。
「わ、わかりました」
そう言って楓は指先から青い光を出す。
【導きの光】。
真乃華も一応だしている。
真乃華は雷の方へ、楓はその真乃華の光の方へ目的地を決め、出していた。
真乃華曰く使えば使うほど遠くの距離や、曖昧な情報でも指してくれるようになるらしい。
「そんなに遠くないのぅ。行くか」
「おう」
守護者は茂、優奈、玲の三人だけだ。
あやめと緑もまたすぐに祐樹の家に来てくれるらしい。
「あ、神様ー!!」
光が指す家の前に少年が立っている。
少し前には黒かった彼の髪も金髪に変わって……。
「雷くん染めてる!?」
「あ、お兄さんです!こんにちは!」
「あ、ああ……」
祐樹は言葉を失いながらも出された手を握り返す。
身長130センチほどの彼は精一杯伸ばしていて可愛らしかった。
「うわ、きれいな人!こんにちは!稲妻雷です!」
「私は絢音楓です。よろしくお願いしますね、雷くん」
「はい!」
「よっ、雷!久しぶりだな!!」
「あ、茂のお兄ちゃんに優奈姉だ!玲くんもいる!」
「久しぶり、雷」
三人はしゃがんだ楓と握手する雷の頭を撫でた。
楓はともかく、三人は雷にでれでれだ。
祐樹があとから聞いたところによると、下に妹弟がいないからかわいくて仕方がないらしい。
(つ、つーか誰も金髪に突っ込まない……!?)
元気な彼に相応しく明るい髪の色。
でもまだ子供だろ……?と祐樹。
「雷、お前は今日から守護者として生きてもらうかとになる。覚悟は出来てるか」
真乃華は突然言い放った。
和気あいあいとしていた雰囲気は一気に収まり、雷は真乃華と祐樹に向き直った。
「…覚悟なんて何年も前に出来ています。五歳になったときにわかっていたです」
雷は静かに、呟くように、しかししっかりとした意思を込めた言葉を放つ。
「神様……真乃華様が目の前に現れて、夢が嘘じゃなかったことがわかって。僕が守護者になるのは本当なんだって。真乃華様に稽古してもらって、段々覚悟は出来たです」
「雷くん……」
守護者が一体何なのか。祐樹には全くわからない。けれど雷は幼いながらもそのよくわからないものを受け入れ、その道を行くことを覚悟した。
そのことは祐樹になにかを考えさせていた。
「でも、祐樹様に仕えるには条件があるです!」
(ひ、祐樹様!?)
神妙な顔から一転。祐樹は間抜けな顔で驚いた。心のなかで。
「そこのお姉ちゃんを助けるです!!」
元気いっぱい指差す方へ皆の視線が行く。
その人物は……。
「楓?」
「はい!」
祐樹が首を傾げていると雷は説明を始める。
「この近くにある自然公園に行って、楓お姉ちゃんと祐樹様と僕だけで決めます。僕がお姉ちゃんを捕まえにいくので祐樹様にそれを止めてもらいたいです」
つまりは鬼ごっこ。
それをクリアすることが条件と雷が言うので、祐樹はそれにうなずいた。


自然公園。
真横に山がある公園で、よく山の動物が降りてきたりする。
その広場は一般的な高校のグラウンドよりさらに広い。一週約800メートルほどだ。
「じゃあいきますよー!」
玲や茂に優奈、真乃華たちは外側のベンチに座っている。
「よ、よしこい!」
祐樹が返すと、雷の回りの砂が浮き上がり、髪が逆立ちバチバチ音をならし始めた。
祐樹と彼の距離は約20メートル、さらにその後ろ50メートルに楓がたってる。
「よーい!スタート!!」
と、同時に雷の姿が消えた。
しかし祐樹は見失ったわけではない。
「クッ!」
大きく出遅れてしまい、高速で動く雷を視界に捕らえたのは自分の横にいたとき。
手を伸ばすより早く能力を発動する。

バリン!

氷の壁。
一瞬で破壊される。
「チッ!」
だが雷の動きがそれで一瞬鈍った。
手を伸ばした祐樹はその手を捕まえる。
「さあ捕まえたぞ!」
「まだまだですよ!」
バチン、と音と共に祐樹の手が痺れる。
思わず離した彼からすかさず距離を取った雷は、右手に電気を集める。
「はぁぁぁ!!」
体勢を立て直し始めた祐樹に電撃が飛ぶ。
なぜだかゆっくり近付くように見えるそれは、祐樹に死を知らしめた。
(どうすればいい…!)
スローな世界。
俗に言う走馬灯だろうか。
その中で祐樹は自らの脳をフル回転させて考える。
そして、手が動く。

ビシャァ!

手から出た物は水。
それが電撃に触れた瞬間、全てが消えた。
「な、なんでです!?」
「聞いててよかった理科の授業!!」
力強く地面を蹴り、一気に雷との距離を詰める祐樹。
驚きながらも電撃を打ち出す彼の攻撃を右手に纏った水で軽くいなし、そしてその手で捕まえる。
「さて、今度こそ捕まえた」
「…お兄さんはこのゲームのルールをわかってないですよ」
不敵な笑みを浮かべる雷。
捕まえられた左手と反対の手から電撃を打ち出した。
狙いは祐樹ではない。
後方にいる、楓だ。
「なッ!」
電撃はものすごい速度で飛んで行く。
そして、祐樹の視界はまたゆっくりと流れた。
二度目の走馬灯だ。
(水を楓の前に出すか、いや、電撃と【チカラ】ならどっちが早いかわからねえ。肉体強化しても速さは追い付かない。……じゃあどうすれば)
一瞬にも満たない時間で祐樹は迷う。
不確定なことが多い中、どうにか答えを探そうとするが見当たらない。
「……」

バァン!

雷が祐樹の手を振り払った時に使った技よりももっと強い電気。
先程よりも大きな音で人にぶつかった。
当たってしまったのだ、
「ふぅ…。上手く行ったです」
雷の手に。
遠くから見ていた者達にはわかった。
祐樹の手を一瞬で振り切った雷は電撃よりも早く、速く動き、楓の前に立ちふさがったことが。
依然祐樹はなにもできないまま立ち尽くしていた。
雷はくるりと振り替える。
そして楓に手を伸ばし。
「お姉ちゃん、捕まえた」
と、口だけ動いた。
口だけ。
「……やったですね、祐樹様」
足を、手を、額を氷に包まれた雷は言った。
氷と肌との間には水が入っているため、能力を使うことができない。霜焼けにもならない。
「このゲームはただ雷くんを捕まえても意味がない。楓を捕まえようとする雷くんを捕まえて、初めて俺の勝利になるわけだ」
祐樹は立ち尽くすフリをやめて歩き出す。
「んでもって、完全に身動きが出来ない状態にもしないと俺は勝てない。逃げてやり直し、ってされれば勝ちとは言えないからな」
雷の真後ろに立ち、足を止める。
ゆっくりと手を伸ばし、最後に言った。
「雷くん、捕まえた」


「流石祐樹様です……」
とぼとぼと雷は歩きながら言った。
祐樹は少しの苦笑を浮かべ、雷の頭を撫でた。
「さて、雷よ。満足か?」
「はい真乃華様」
「うむ」
雷の返答に真乃華は頷く。
「でもわからないことがあるです」
「ん?なんじゃ?」
「祐樹様がしてたことです」
「?」
真乃華は首をかしげた。
楓やその他メンバーはなんのことか、うっすらわかっていたが。
「僕の攻撃を消してた水です」
「ああ、あれか」
何度も雷の攻撃を打ち消した水。
彼にとってあれは何なのか全くわからず、戸惑ってしまったのだ。
最後には身動きを封じられた際に電撃が出せなくなっていた。
「水道水とかなら電気はそこを流れていくだろ?けど、不純物の一切ない純粋な純水は電気を通さないんだよ」
通らなかった後どうなるかは能力から出した電気だからわからないけどな、と祐樹は付け加える。
(知らなかった)
雷にとって対能力者戦は初めてではない。
が、祐樹の行った対策がそんな物理法則だとは知らなかった。
年齢の差が生んだ結果だ。
「じゃあ僕がお姉ちゃんを捕まえようとしたとき、すぐに氷付けにできたのはなぜです?」
「俺も最近気付いたんだけど、【チカラ】って独立して使えるらしい」
「【チカラ】を……?」
雷が首をひねって言う。
祐樹は微笑むような笑みを浮かべた。
「見えない能力の塊、それが【チカラ】。そいつを水にするか電気にするかは【チカラ】を動かした後に決定できるらしい」
「……??」
「祐樹、その話はまた詳しく教えてやってくれ。今すぐ理解しなくてもいいのじゃろ?」
真乃華が言った。
それもそうだと祐樹は頷く。
と、言うより彼自身感覚でしかわからないため説明できない。
「それよりあれ教えてくれ。電撃より速く動いたあの技」
「あ、はい。結構簡単なんですけど…」
バチン!と雷の身体から音がなり、紫電があちこちから音をならす。
「少し…!僕にもダメージがあるですけど、こうやって体内に電気を流して……」
そして一歩踏み出し、

シュン!!

いなくなった。
「……すげえ」
祐樹は思わず呟いた。
玲や茂達も目を剥く。
「と、こんな感じです!」
そしてまた一瞬後に雷が現れた。
「す、すごいすごい!雷くんすごいねー!!」
優奈が雷に駆け寄りその頭を撫でた。
「ゆ、優奈姉くすぐったいですー!」
若干の抵抗をするも嬉しそうに彼は笑う。
そんな様子から目を離し、祐樹は集中してみる。
(まず……体に電気を流す)
小さく弾ける音と共に額に電気が溜まる。
そしてそれを一気に体へと流し……!
「あッ!あが!あがががが!!」
苦しそうな声で叫んだ。
「ひ、祐樹様!体に流すのじゃなくて体の中です!」
「ぐぁ!!……ハァ…ハァ…」
前にスタンガンを当てられたときはなんともなかった祐樹だが、自分の能力は別らしい。
スタンガンは吸収のような形で防げたが能力では吸収できない。
「体内…」
しかし懲りずに祐樹は再挑戦する。
(…【チカラ】だけ体内に広げてみよう)
じんわりと。
血管や筋肉に見えない何かを纏わせる祐樹。
能力者が数人集まる中、祐樹が行っていることを理解できたのは真乃華と、辛うじて楓だけだった。
(そして、電気に変える!)

ブォォッ!!

祐樹の髪が逆立ち、先ほどの雷のような状態になった。
「こ、こうか?」
「そうです!」
「……いてぇ」
が、流石に雷ほどうまく扱えないらしく身体中が痺れていた。




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