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《好きだとか愛だとか》
―ちあき視点―


ついに約束の時間が来てしまった。

始めは忍足くんと芥川くん、鳳くんの四人でわいわい騒ぎながら肝試しコースを歩いた。

みんな平等に、だった忍足くんが楼兎ちゃんと付き合うことになった話とか芥川くんが今片思い中だという幼なじみで女子テニス部長を努める緋那ちゃんの話、鳳くんの彼女ウタちゃんとの話を聞いていると煩い事を忘れていられた。


『ウタちゃんは元気?』

「はい。最近は卒業まで時間が限られてるからと言ってお弁当を作ってきてくれるんです。」

『ウタちゃんはいいお嫁さんになるね。』

「え…?」


からかうつもりはなかったのに失言だったかと少し後悔した。忍足くんと芥川くんに茶化されて可哀相に。

すぐに話題を変えることにした。


『ところで忍足くん。楼兎ちゃんとなんで付き合うことになったの?』

「それを話させると話長いC。」

「ちあきさん、それはうちの部員も気をつけている点です。聞いたらダメって。」

「ええやないか〜。話させてぇな。」


まとめて話せ、と芥川くんに注文されて唸る忍足くんをよそに芥川くんは最近、氷帝であった話をしてくれた。

そして、自分の恋についても。


「緋那とは幼なじみなんだけど、うまく進展しないんだよなー。」


幼なじみ。

私をブン太が何年も思ってくれていたことを思い出すと胸がずきずきと痛んだ。


『焦らない方がいいかもしれないけど、急いだほうがいいかも。』

「どっちさ?」

『近くにいるって安心してると知らない間に遠くなってることがあるから。』

「それって自分のこと?」


はっと気付かされた。

幼なじみを異性として意識していなかった自分が関係を崩したことを思いながら語っていた。

もっと早く気付いていたら私たちの未来は変わっていたのかもしれないのに、と責めている自分がいた。


「でもさ、ちあき。俺、例え緋那が違う男を見てても幸せだと思う。」

『どうして?』

「緋那の幼なじみって立場は俺しかなれないから。」


そう笑った芥川くんがブン太と被って見えた。

過去の自分が築いた幼なじみという関係を今、自分が他の誰かと築けるわけではない。


「なんか保守的ですね。」

「だって、どんなに思ってもダメな時ってあるじゃん。そういう時に自分の立場くらい守らないとすべて失うC?」


芥川くんはそれ以上望まないのが一番なんだよな。でも、例え傷つけられても嫌いになれないんだ、と言った。

ブン太もそうだったらいいな、なんて思うのは都合が良いよね。


「あらま、のんびり歩きすぎたか…早よ戻って宍戸にバトンタッチしよか。」

「そうですね。」


折り返し地点でゴールを目指して再び歩き出した。

本当は向日くんと宍戸くんと私の三人で歩く予定だったみたいだけど、彼は調子が優れないから、と言って部屋で寝てる。

だから私は宍戸くんと歩くことになったんだけど、それなら景吾と宍戸くんと三人で歩けばいいのに、なんて思った。


「宍戸さん、お待たせしました。」

「おう、」


ゴールするとスタート地点で待機していた宍戸くんに鳳くんが懐中電灯を手渡していた。


「よし、ちあき行くぜ。」

『うん、』


私は宍戸くんについて改めて再スタートした。懐中電灯を持つ彼は私の歩みに合わせ、足元を確認しながら歩いてくれた。


「おまえも大変だなー?」

『歩くのは苦痛じゃないよ?』

「あ、いや…そうじゃなくてよ。」


肝試しのことを聞いてきたんだと思った私は思考を巡らせた。

それがなにか何となくわかった私は黙ってしまった。それから会話があまりなくて、気を遣って彼が話し掛けてきた。


「ちあきさ。なんで立海のマネやろうと思ったんだよ?」

『あ、うん。雅治が臨時でやらないか、って言ってくれて…』

「雅治?」

『仁王くん。』


名前と苗字が一致しなかったらしく、彼は苗字を聞いて、納得した。

それと同時に新たな疑問を持ったらしく、また質問してきた。


「仁王と仲良いのか?」

『うん、』

「珍しいな。人に対して冷たい奴だったのに。」

『そうなの?』

「酷いってもんじゃないぜ?人を騙して楽しむのが得意でよ。」


俺はあいつが苦手だ、と言った宍戸くんは私が彼と仲がいいことを納得していないみたいだった。


『景吾と別れた日に助けてくれたの。』

「助けた?」

『ウサギを見つけたって。』

「(ウサギ…?)」


雅治が悪い人ではないことを宍戸くんにも知ってほしいと思って話していたことだった。

しかし、彼はふと笑い、私に言った。


「ちあき、仁王が好きなんだな?」

『っ、…なんでそう思うの?』

「好きじゃなければこんな話しねぇだろ。ま、その好きが like か love かは知らねーけど。」


氷帝テニス部レギュラー陣の中で恋愛に疎い、でおなじみだった宍戸亮。彼にそんなことを言われたのは少しショックだった。


「実るといいな。」

『…うん。』


彼に励まされて胸が熱くなった。照れ臭いからか、うれしいからかはわからない。たぶん、わからない振りをしたんだと思う。それを自覚するとなんだか少しだけ悔しく思うから。


「跡部に未練はないのか?」


彼からの質問に私ははっきり答えられなかった。答える勇気がなかった。

なんて私は弱いのだろう。か弱いイメージがあるウサギと仁王くんに呼ばれるのもわかる気がする。


『どうしよう。緊張してきた。』

「……ちあき。この後のこと悪いな。跡部がどうしてもちあきと二人で歩きたいって言ってどうにもならなくてよ。」

『宍戸くん。』

「あ?」

『いつも見守ってくれてありがとう。』

「……バーカ!しんみりさせんな。俺ら友達だろうが。」


そう言って笑って見せてくれた彼の笑顔は月明かりに照らされ、太陽の下で見るよりずっと優しく見えただろう。

その笑顔に鼻の奥がツンとして、涙がじわりと滲んだ。





Special Thanks!

緋那さま






あきゅろす。
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