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《噛み合わない歯車》
―仁王視点―


楼兎は彼女がいる人間を考慮して幸村と赤也で1回、ブンで2回、俺とで3回コースを歩くことにした。

幸村や赤也、ブンが楼兎とどんな会話をしたかは知らんが、アイツは俺には特別に話があるようじゃった。


「なにか言いたげじゃのう?」

「あ…ごめん。その……ちあきちゃんのことなんだけど…」

「じゃと思うた。」


道案内をしてくれる楼兎の手を引いて懐中電灯を持つ俺は足元を確認しながら進んでいた。

それで表情を見られることはなかった。


「仁王くんはちあきちゃんのこと好き?」


ストレートに聞かれた言葉に俺は思わず立ち止まってしまった。

考えることではない。

だが、楼兎に言う必要はないからうまくかわすために逃げ道を探していた。


「もし、好きなら絶対守ってあげてね。」


逃げ道が見つかる前に言われた言葉。なぜそんなことを楼兎に言われねばならないのかわからなかった。

しかし、答えは彼女から告げられた。


「丸井くんが言ってたの。ちあきちゃんはもう独りだって。」

「ブンが?」

「守れないんだって。ちあきちゃんに求められない限り。」


ブンがちあきを守れない?

ちあきに突き放された?

いや、ブンに絶対的信頼を寄せるちあきがそんなことはしない。

だとすれば――。


「(アイツ、告ったんか…?)」


ブンに守る気があってもちあきが求めなければ意味がないと言うのはフラれたからか…?


「私が言うと余計なお世話かもしれないけど…」

「いや、それ聞けて助かったぜよ。これからブンを慰めてやらんとならんからのう。」

「…落ち込んではなかったよ、彼。」


落ち込まない?

ちあきをずっと思ってたブンの傷は浅いわけではないじゃろう。

そう振る舞っていただけかもしれん。


「もう、仁王に任せるって。」

「………」


任せるって簡単に言いなさんなブン。

俺かてちあきに受け入れられたわけじゃないんよ。


「まだ、問題があるん。」


ちあきがずっと守ってくれたブンを前にして俺を選ぶか。

元カレのことを引きずっていなくても、新しい問題が生まれた。

俺はブンが告白してくれたことで後ろめたさがなくなったんじゃが……世の中、うまくいかんのう。


「問題って跡部のこと?」


こんなタイミングで跡部の名前が出てきたことに少し驚いた。

マネージャーなんじゃから、部員の恋事情くらい知っているだろう。

俺が知っていた情報と合わせても――他校の元カレが跡部だというのも納得がいく。


「おまえさん、なんで別れたかは知っとう?」

「……跡部は財閥の息子だから、きっとなにか事情があったんじゃないかな?私がちあきちゃんと別れたこと知ったの結構後だったし。」

「ふーん?」

「手放したくないものを手放さなくちゃいけない理由てどれほど重要なことなんだろうな?って跡部に聞かれたよ。」

「別れる気はなかったんか…」


楼兎からの返事を聞かなくても答えはわかっていた。

跡部が別れたくて別れたわけではないことをちあきが知ったら、アイツはどうするんじゃろう。


「ちょお、頭冷やさんといかんのう…」

「じゃ、帰ろうか。折り返し地点まで来てないけど。」

「ん、了解。」


俺達は中途半端なところで引き返し、出口を目指した。

長い間、その場で留まってしまっていたからだ。


「仁王くん、ちあきちゃんのこと泣かせたらダメだよ?」


友達としてお願いする。

なんて楼兎は言うたが、ちあきの涙を見た人間はきっと数少ないだろう。


「残念じゃけん。ちあきん涙を見ていいんは俺だけなんじゃ。」

「……仁王くんて変。」

「よく言われる。」


共通の話題で親しくなれたのか俺達はなぜか笑っていた。

俺の手を握る隣にいる人間がちあきじゃないことだけが残念じゃ。





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