《殺した気持ち》
―丸井視点―
ちあきが仁王を好きなことは知ってる。だから余計に胸が痛んだ。
「ちあき、氷帝マネージャーに部屋どこか聞いてこいよ。」
『う、うん…』
繋いでいた手を放し、ちあきを仁王の元へ行かせてやろうと思った。
だから、ちあきが俺の元から去っていくのをただ見ていたのにやっぱり胸が苦しかった。
「(報われねーな…)」
仁王からちあきを奪い取るつもりはない。
初めはちあきが俺のことを好きならいいのにって思ったけど、ちあきの本心を悟ってしまった以上、無駄な願い事だと思う。
今もちあきの好きな奴が俺なら、って思うのは思うけど。矛盾してる自分がいて腹立たしく思う。
『雅治!』
「なんじゃ?部屋わからんのか?」
『そうじゃなくて!』
「幸村ん部屋はあそこ。ちあきん部屋は2階じゃて。」
『雅治ってば!』
「……準備運動しなきゃならんから行く。」
でも、ちあきの幸せを願うのが一番カッコ良いことだと思うから俺はちあきとこれ以上を望まない。
ただ、仁王がさっきの俺らを見てなにを思ったかが問題だろう。
曲がり角から聞こえてきた会話――ちあきを避けてるようにも感じる仁王の声が気掛かりだ。
「ブン太、試合をするよ。」
「……」
「ブン太?」
「…え?あ、」
声をかけられるまで幸村くんが背後から近付いていたことにも気づかなかった。
それどころか声をかけられたことにさえ気付くまで少し時間がかかった。
別のことを考えてたからだ。
「なにかあったのかい?」
「いや!…なんも。」
「そうか。じゃあ、テニスコートに集合だ。」
「おう、」
幸村くんの背中を見送ってため息をついた。
大好きなテニスにも身が入らないようじゃ問題だな。
幸村くんに言われたようにテニスコートに来るとジャッカルが近付いてきた。
「丸井、おまえラケットなしにどうやってテニスするつもりだ?」
「え?……あぁー!?ラケットねぇ!」
ワンテンポ遅れて反応した俺にジャッカルは呆れながらラケットを渡してくれた。
俺はなにしにここに来たんだよ。
「わり、」
「荷物も部屋に運んどいたからな。」
「サンキュー」
俺のユルユルな反応にジャッカルも困っていた。
それもそうか。普段の俺とは大分違うしな。
「ちあきがマネなんてちょっとびっくりー!こんな形で会えるなんて運命だCー」
「運命かは別として嬉しいもんだよな。」
『私もまさかこんな形でみんなに会うと思わなかったよ。』
ふと見ればちあきは氷帝の奴らに囲まれていた。
それを遠目で見てる仁王がいた。
「(すげぇ辛そう…)」
あの芥川が俺に見向きもしないでちあきにベッタリなんて意外だ。別にヤキモチじゃなくて。
それだけちあきは魅力がある――人を引き付けるなにかがあるんだろうな。
「(跡部一人、真田と試合してらー)」
考えないようにしてるのか跡部は真田相手に真剣に(見えるだけだと思うけど)試合してた。
他の真面目なヤツ、鳳と日吉だけは柳と柳生に試合を申し込んでた。
「うっし!いいこと思い付いたC!」
「マジでいいことなのかよ?」
「合同合宿、2泊3日じゃん?だから交流を兼ねてマネ交換して肝試ししよー!」
芥川は自分で提案しといて勝手に興奮してた。
ちあきの顔色が悪くなったのは気のせいじゃない。アイツは暗いのは得意じゃないから。
「肝試し?」
『なんでまた肝試し?』
「合宿イベントと言えばこれじゃん?」
「まぁ、定番やわな。」
「じゃあ、私は立海のみんなと肝試しするの?」
「それは妬けるなー」
氷帝のマネの楼兎ってヤツは最近、忍足の彼女になったらしく、忍足一人だけ微妙な顔をしてた。
まぁ、交流がメインなら問題ないだろぃ。
「楽しそうじゃん?」
「ノリノリやな岳人。」
「ちあきと話したいこと一杯あるしよ?」
『……』
ちらりとちあきが仁王に視線を送った。それと仁王は気づかなかったのは欠伸をしていたからだろう。
『いいかもね。』
「やったー!じゃあ、跡部と幸村に相談してくるー!」
張り切って試合中の跡部に向かって走って行く芥川を見ていたちあきが心なしか嬉しそうな顔をしていないように見えた。
「(早く仁王とくっつけばよかったのに。そしたら肝試しなんて断ったはず。)」
ちあきを見ていると仁王との関係にいまいち踏ん切りが着かないのは自分も関係している気がしてならなかった。
「みんなちょっといいかな?今、芥川の提案でマネージャーを交換して肝試しをすることになった。」
「肝試しっスか!?」
「向こうのマネージャーと歩くんだ。赤也、彼女がいるなら三人でも構わないと言っていたよ。」
「つまり…?」
「俺と赤也と楼兎ちゃんの三人だ。」
「決定事項じゃないっスか!」
赤也がぶーぶー文句を言ってるのを無視して幸村くんは部員に参加するか否か聞きはじめた。
「真田。君は参加するかい?」
「いや、俺は辞退する。」
「仁王、君はどうする?」
「……」
少し沈黙した後に仁王は目を伏せながら答えた。
「別になんでもいい。」
「!」
俺は驚いて仁王を見てしまった。
ちあきが肝試しに参加することを知っての行動なのか?
「ブン太は?」
「……する。」
なんで仁王がそんな冷たい目してんだよ。
そんな感情を押し殺すくらいならちあきに言えよ。
“そんなもんに参加するな”って、なんで言わないんだよ。――仁王。
→
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!