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《温度差》
―ちあき視点―


あれは高校に入って1日目、学校帰りのことだった。

校門で人だかりが出来てるのを避けて校門から道路に出た時に声をかけられた。


「ちあき!」



振り向くとそこには友人の跡部景吾がいて、人だかりの原因を知った。しかし、彼がなぜここ、神奈川にいるのか理解出来なかった私は目を丸くした。


「やっと出て来たか。」


彼にすれば慣れたことなんだろうけど、校門で女生徒に囲まれていた彼は彼女たちを押し退けて近付いてきた。


『なんでここにいるの!?』


景吾が神奈川に来た目的は先の発言でわかったのに周りからの視線が痛くて、ついつい彼の目的を疑った。


「ちあきに会いに来た。それが理由じゃダメか?」

『っ、…ダメじゃ…ない。』



その場には私よりずっと可愛い子がいたのに彼、景吾は目もくれずに私の元に来た。

いつしか彼から向けられていた好意に私も満更でもなく喜んでいた。

ただ、自分に自信がなかったし、なによりも自分が嫌いだった私に景吾が告白してくるなんて夢みたいだった。


『私って女だったんだね?』

「俺はそっち系の趣味はねー」

『なんで私なの?氷帝にも可愛い子いるでしょ?』

「この俺の目に狂いはねぇよ。」



中学を卒業して高校に入った春、私には自慢はしないけど自慢したくなるような彼氏が出来た。


「ちあき。」

『ん?』

「俺は他のヤツなんか興味ねぇからな。絶対忘れんな。」

『…もし忘れたら?』

「あぁ!?」

『もしだよ、もし!』



いつも自信がなかったのをあなたは知っていた。だけど、景吾のこと信じられないわけではなかったの。


「忘れられないくらい溺れさせてやる。」

『っ、景吾…』

「しっ、喋んな。」



初めて重ねた唇が熱を帯びて赤くなったこと、鏡を見なくてもわかるくらいだった。

私のファーストキスは初恋のあなただった。

あの味、今でも覚えてる――?


『(まさか…今更、景吾に会うなんて、思いもしなかったな…)』


私たちの出会いの始まりは幼なじみであるブン太のテニスの試合を見に行ったときだった。


『もー!急に一体なんなの!?』



急に降ってきた雨のせいで慌てていたあのとき、下を見て走っていた私は彼に体当たりした。


『きゃ!』

「!」



勢いのあまり、二人で水溜まりの中にダイブしたんだったね。なにからなにまで濡れたくらい派手にこけた。


『前も見ずにすいません!お怪我は?』

「俺はねーけど、おまえがしてる。」

『あ、いや…私は――』

「おまえ…立海の生徒か?」

『え?…はい、そうですけど。』



なぜ彼が私のことを知っていたのか。

後で聞いた話だけど、景吾は時たま私の姿を会場で見かけたことがあったらしい。


「生憎、なにも持ってねぇ。」

『あ、いえ…たいした傷でもないし、私からぶつかったので気にしないでください。』



鞄からハンカチを取り出して私は彼に手渡した。すると彼もハンカチを渡してくれた。上等そうなハンカチから控えめに香って来たのは彼の香水だろうか。


『あなた、氷帝の生徒ですよね。名前と学年教えてください。洗って返しに行きますから。』

「……3年、跡部景吾。来るなら生徒会長はどこにいるか聞け。会長に呼び出された、と付け加えろよ。矢倉ちあき。」

『なんで名前……』

「なんでだろうな?」



不敵に笑った彼の顔、今でも覚えてる。

忘れもしない出会いだった。


『“自分”を持ってるんだね…でも、私と跡部くんは住む世界が違うよ。』

「住む世界が違う?」

『跡部くんはすごい人だと思う。テニスも勉強も出来てね。私とは釣り合わないよ。』



景吾から告白された時、私は彼にこう返事をした。だってこんな彼女、自慢出来ないじゃない?

きっと彼は恥ずかしくて人に紹介なんて出来ないよ。

――そう思っていた私に彼は不敵な笑みを浮かべて静かに口を開いた。


「釣り合うか合わないかってのは誰が決める?」

『え?』

「俺とちあきじゃねーの?」


私は彼のその一言で完全に落ちてしまったのだった。景吾は私の不安を初めて全部取り除いてくれた人なの。


「なんや跡部ー自慢か。」

「クソクソ跡部!」

「ふん、自慢してなにが悪い。」

「しっかし、ちあきが跡部の彼女になるなんてな。趣味を疑うぜ。つか、激ダサ。」

「あぁん!?」

『宍戸くん…そんなこと言ったら景吾が怒るに決まってるじゃない。』

「そうですよ宍戸さん。」

「激ダサだCー」

「先輩たちが茶化すからですよ。」

「ま、跡部。ちあきちゃんに愛想尽かされないようにね。」

「楼兎のくせに余計なお世話だ。」



私たちが3年だった時に氷帝テニス部のレギュラー陣に改めて紹介してもらった。

忍足くん、向日くん、宍戸くん、芥川くん、鳳くん、日吉くん、マネージャーの楼兎ちゃんと仲良くなれたのも景吾のお陰。


『(あの頃はみんなと一緒にいて楽しかったな…)』


今更そんなことを思っても仕方ない。今どうするかを考えないと。


“ちあきって呼んでみたくなったんじゃ。ダメ?”


慰めてくれた彼を好きになった自分の気持ちと信念を貫く?


“ちあきは俺が守ってやるから安心しろぃ?”


ずっと支えてくれた彼に責任感を感じてる自分が今度は好きな人を捨てて支える?


“ちあき、信じろよ”


幸せにはなれるかわからないのに過去の自分を慰めるために受け入れる?


『どの道を選んでも自分が自由になるために利用してるみたいに感じるの。だから…』

「なんの話じゃ?」

「仁王…」


ブン太が立ち止まったのは雅治がいたからだろう。私はただ、雅治に見られた今のこの状況の故に俯くしかなかった。


「ちあき…なにしとったん?」

『その…違うの!』

「さっき試合やるって真田が言うとったぜよ。マネの出番じゃい。」

『雅治…!』


彼を呼び止めたけど、雅治は耳を傾けさえしなかった。原因はやっぱりこの手だろうか?

雅治――私、早くにあなたに伝えるべきだったね。そしたらあんな思い、一瞬でもしなかった。





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