《恋は忙しい》
部活を終え、帰宅して風呂に入った。そして、いつもと同じような時間に夕食を食べていると姉貴が帰った。
「ただいまー」
「おかえりんしゃい。」
「……雅治。」
「あ?」
「ちあきちゃん、可愛いね。」
冷やかすために言った言葉だとわかった俺は過度に反応することなく、平然を装って言った。
「姉貴にはやらんよ。」
それに対し、全然可愛くないと言われた。可愛いって言われる歳でもないから全く気にしない。
「そりゃあ、どうも。」
「あ、お金さ?カット代はサービスした。」
「あそ。」
「で、代わりにワックスとスプレー代にしたから。」
「機転を利かしてくれてどーも。」
「心こもってないから嬉しくないー」
姉貴はまた俺に可愛くない、と呟いた。男が可愛いと言われても、それこそ嬉しくない。
「雅治が女の子連れて来たから彼女だと思ったのに残念ー」
「ホント残念じゃ。」
「彼女になったらうちに連れて来なさいよー?」
「はいはい。」
彼女になったら。いつそれが実現するかわからないが遠くはないと思ってる。…のは俺だけかもしれんが。
「彼女にする気満々なのね。」
「前のヤツを引きずっとうからそれを振り切ったら彼女になってくれるじゃろうね。」
ちあきの元カレが誰かはブンだけが知っている。なぜか俺は別に知りたいとは今は思わない。
そして、ちあきが言うてこないなら知る必要がないことだと思ってる。
「ごちそうさん。」
食事を終え、携帯が光っていることに気づき、部屋に行こうと立ち上がると姉貴に腕を捕まれ、引き止められた。
「なんじゃい。」
「晩酌、付き合え。」
「暁雅(あきまさ)に頼みんしゃい。」
「暁はテスト勉強してんだもん。」
「はぁ、」
光る携帯を横目に姉貴に付き合うことにした。酒に強い姉貴は水感覚で飲んでいるからそう簡単に解放されないとは思っていた。
「早く注いで。」
「俺は寝たいんじゃ。」
「夜遅くまで携帯いじっちょるくせによく言うわ。」
「(チッ。なんで知ってるんじゃ。)」
その考えは当たっていた。それから姉貴に解放されたのは12時だった。
「はぁ、遅くなってしもうた。」
ようやく携帯を見ることが出来た。ちあきからだと知っていればもっと早くに返事をしていたのに、と後悔した。
メールの内容を見るとお礼と明日(すでに今日だが)の予定変更だった。
「待ち合わせか。その方が助かるっちゃ助かるが。」
今、返事を打って平気なのか心配した。寝ていたら起こすかもしれない。しかし、待ち合わせ場所に関して連絡しなければいけないから打つ以外にないが。
「(明日、なに着て行くかのう。あ、明日ついでに買い物するか。なんか嫌なこと聞いたしのう。)」
合宿の支度をしながら明日の服を考えた。この落ち着かない様子、前に見たことがある。
「(姉貴みたいじゃ。)」
昔、彼氏とデートする前日にバタバタ家中を走っていたのを思い出した。それはつまりそういうことに不慣れだということ。
「(恋をするってのは大変やのう。)」
男でもあれやこれやと大変なら女はもっと大変だろう。化粧やら髪型やら。でも今は女並みに大変だ。
「こりゃ片付けも大変じゃ。」
服を引きずり出したり忙しかった分、片付けも忙しいだろう。部屋を見渡してため息をついた。
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