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《私が好きな人》
―ちあき視点―


「髪型どうします?雅治から可愛くしてやって、って注文は来たけど。」


美容室に入って席に案内されるなり美容師さんに言われた言葉。

恥ずかしくて俯いたけど、顔がタコみたいになっているのは美容師さんに丸分かりだった。鏡が正面にあるから。


『ショートカットでお願いしたいんですけど、』


細かく注文をすると美容師さんは丁寧に答え応じてくれた。カットも上手だし、なによりなにかあったとき(例えばクシが髪に引っ掛かったり)の対応もよい印象を持てた。


「へー、じゃあ、明日見せるんだ。じゃあ、うんと可愛くならなきゃね。」

『どんな感想聞けるか楽しみです。』

「雅治が本当は待っていたかったって言ってたのはそのことだったのね。」

『部活があったから部活してほしかったので明日って、』

「ちあきちゃんはいい子ね。おまけに可愛いし。明日は土曜だからデートってわけね〜?若いっていいわねー!」

『そ、そんな。デートなんて。』


自分でさりげなく明日と言ったものの、明日が土曜日だって忘れていた。

端から見れば、明日会うなんてデート同様かもしれない。


「しかし、雅治にこんな可愛い彼女いたなんて知らなかった。なんにも言わないんだから。」


ただ、今気になるのはこの美容師さんと雅治の関係。この人はよく雅治を知っているようだけど。


『あの、雅治とはお付き合い長いんですか?』

「えぇ?……あはははっ!そっかー!わからないよね。」

『?』

「顔見てわかるっちゅーんは雅治が幼い顔しとう中学んときくらいかねぇ?ちなみに雅治は赤ん坊ときからの付き合いなん。……って、言い方すればわかる?」

『も、もしかして…!』


自分の目を疑った。と、同時に恥ずかしくなった。私は間違いなくこの美容師さんにちょっと嫉妬していたからだ。


『雅治のお姉さん!?』

「ピンポーン!」

『私、知らずにすいません!』

「ネームつけてたらわかったかもしれないけどそうじゃないからね。」


雅治が行き着けの美容室がお姉さんのお勤め先だとわかって納得した。そして安心した。

美容室にいる人はみんな綺麗でおしゃれな大人のお姉さんという印象を持っていたからちょっと不安だった。


「よし、こんなんでどうかな?セットするときはここらへんを束ねてワックス付けて……整えながら最終的にスプレー使ってみた。」

『ありがとうございます!』

「雅治も惚れ直すよ、きっと。」


ここまで会話が弾んでいるのに否定するのはなんだか申し訳なかった。

ただ、嘘はつきたくなかった。


『私たち…付き合ってるわけじゃないんです。』

「え!?てっきり…ごめんね?(アイツ意外と奥手なのか〜)」

『いえ。でも、彼の好意は嬉しいので惚れているのは私の方かもしれません。惚れ直すのもきっと…』


雅治のお姉さんはセットしたばかりの頭の代わりに私の肩をポンポンと優しく叩いた。


「いいや。間違いなく雅治はちあきちゃんに惚れてる!そうじゃなきゃ、私に女の子を紹介しないもん。」

『どういう意味ですか?』

「冷やかされたくないからね。でも、冷やかされても自信もってちあきちゃんに惚れてるって言えるから連れて来たのよ。」


お姉さんの言葉が本当かなんてわからなかったけど、期待しないわけがなかった。

連日の出来事や思い当たる節がある。つまり、私たちは――。


『そうだといいな。』


確かめてないから根拠はない。でも、今は雅治の優しさを感じてるだけで幸せだった。


『あ、お会計いくらですか?』

「今日はいらないよ。」

『え?そんなわけには…』

「雅治からお金もらったんだけどね、弟からのお金が給料になるってなんか嫌だし。初回無料よ。私、まだ一人前じゃないし。かえって見習い中なのに切らせてくれてありがとうなんだ。」

『じゃあ、お言葉に甘えて。』

「よし!雅治のお金でプレゼントに変えよう。スプレーとワックス代でちょっきりだし。」

『ありがとうございます!』

「言うなら私じゃなくて雅治に言いなさい?」

『雅治にも言います。』


雅治のお姉さんはすごく暖かくて、親しみやすくて、機転が利いて。私には憧れの女性美容師さんだった。





――その日の翌日。

家が近いと聞いていたけど雅治にはお礼をしたかったから買い物をするために待ち合わせすることにした。


『雅治!』

「……お。」

『昨日はありがとう。』

「どういたしまして。」

『髪切ってくれたの雅治のお姉さんだったんだね。知らなかったからびっくりしたよ。いい人だね!』

「姉貴がいい人かはいかがなものかと思うがな。」


なんて言いながら苦笑してる雅治の手に綺麗に包装してある小さな箱を握らせた。彼はそれに気づき、すぐに私を見た。


『お礼、したくて…』

「ありがと。」

『こちらこそ。』

「開けていいか?」

『うん、』


雅治が袋を開けてる間、どきどきしてた。気に入られるだろうかと不安だったから。


「シャーペン。」

『ずっと使えて、よく使うもの。それが一番に浮かんだの。雅治も私にくれたでしょ?だから、』

「ようやく100円シャーペンとさよならじゃな。」


そう言って喜んで笑ってくれた雅治を見て嬉しくなった。私にすれば男の人になにをすればいいかが一番の難題だから。


「ちあき、」

『ん?』

「また一段と可愛くなったのう。短いのも似合う。」

『っ、…ありがとう。』

「可愛い可愛い。」

『もぉ!そんな言わないでよ。恥ずかしい。』

「本当のこと言うたらダメなん?」

『いや、そうじゃないけど…』

「ならいいじゃろ。」


雅治には敵わない気がした。勝とうなんて思いもしないけど。


「さて、折角のデートじゃからデートっぽいことせんか?」

『例えば?』

「んー…まずは手を繋ぐか。」


差し出された手を見るのは二度目になるだろうか。前の記憶を思い返すとその大きな手を愛しく思った。

私は迷わずその手を握った。


『ねぇ、雅治?』

「ん?」

『雅治と仲良くなって1週間以上たったの。知ってる?』

「あぁ、知っとう。記念になにかしようか?」


記念という言葉が好きなのか。

雅治はアド交換したときも言っていた。


『記念になにかってなに?』

「んー…定番かもしれんが例えばお揃いでなにか買うとか?」

『じゃあ、買う?』

「ちあきはなにがいいん?」


二人で歩いているだけで楽しかった。店頭に並ぶ商品をあれやこれやと議論しながら歩くことが。

結局、なにを買ったかと言うと。


『でも、雅治はストラップ嫌なんじゃなかったの?』

「別にいいん。折角の記念なんじゃし。」


恋人同士でもないのにお揃いの携帯ストラップを買った。それを持って近くのベンチに座り、家まで待ち切れずに袋を開ける子供みたいに二人で袋を開け、ストラップを携帯に付けた。


「(恋人同士でもないのにお揃いってちあきはどう思っとう…)」

『(恋人じゃないのにお揃いってこと、雅治はどう思ってるんだろう?)』


そう疑問を持ちつつ、お揃いってことが無性に嬉しかったりする。

今まで付けていた景吾からもらったストラップは机の引き出しの奥深くにしまうことになるだろう。

私はもう、雅治への思いでいっぱいだった。





あきゅろす。
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