《思い出にさよなら》
―仁王視点―
昼休み、ちあきがいなくなった。あれほど離れるなと言ったのに。
「(たく、どこ行ったんじゃ。)」
とりあえず、ちあきの行方を知るために近くにいたクラスメイトのあさに聞いた。
「おい、あさ。」
「なに?」
「ちあきどこか知らん?」
「あんた、口開けばちあきちあきって。ちあきにベタボレじゃん。」
「いけない?」
「はぁ、ちあきも大変だわ。こんなヤツに惚れ込まれて。」
残念ながら嫌み(いや、素晴らしい褒め言葉)にコメントしてる場合じゃない。
「で、ちあきは?」
「ちあきなら呼び出されたって言って教室出てったよ。」
「どこじゃ!!」
ちあきが呼び出された相手が誰かすぐに知る必要があった。俺が慌てた様子を見てあさは驚いていた。
「(クールな仁王がこうも熱くなるなんて信じらんない。)ちあきは裏庭に行くって。」
「裏庭か。サンキュー。」
「あ。ちょ、仁王!」
早くちあきの元に行かなければ、と焦っていた。だから鞄の中からあるものを取り出して走った。
そして裏庭についた。
「(間に合ったか。)」
丁度、ちあきがたどり着いたところだった。影から見ていることに気付かなかったらしい。ファンクラブのトップが現れた。
「よく学校に来たわね。潰せたかと思ったのに。」
『あなたが…仁王雅治ファンクラブの人。』
「会長よ。仁王くんに近付く人をしつける(潰す)のが仕事なの。悪いわね、」
恐ろしいものだ。俺は好きどころか顔さえ知らないヤツだっているのに多くの女生徒に好かれ、偶像視されているからだ。
『トイレで牛乳…かけたのはあなたたち?』
「今更言うことじゃないでしょ。」
『掟なんて守ってないで雅治に正々堂々アタックすればいいのに!』
「コイツ!」
『っ、』
ちあきが女子数人に取り囲まれ、取り押さえられた。急いで持っていたものを構え、引き金を引いた。
すると勢いよく、中のものが飛び出し、一人の頭に命中した。
「きゃあー!!」
「なに!?」
「冷たい!」
「なに?牛乳?」
『!、……雅治。』
女子が振り返った。俺を見るなり顔色が蒼白になって笑えた。更に構えているものを見ての顔も笑えた。
「仁王くん!」
「わが家の家訓は目には目、歯には歯なん。先日、ちあきが牛乳でツヤツヤになったって聞いたんでね、」
「…水鉄砲。」
『雅治、どうして…』
「ちあきに手を出すのは許さん。ちあきの腕を放せ。」
俺が睨むとちあきの腕を掴んでいた二人は手を放した。しかし、ただ一人だけ手を放さなかったヤツがいた。
「……なにしとう。放しんしゃい。ただでさえ、ちあきに怪我させようとしたんじゃ。これ以上、俺の怒りを買いたいんか?」
ちあきの髪を持っていた会長の手が放されることなく、彼女は持っていたハサミをちあきの髪に近付けた。
「…やれやれ。悪いヤツってのは最後まで悪いのう。」
「私たちを裏切るからよ。」
「もう一度言う。ちあきから手を放せ。」
「ふん、どうせその水鉄砲で私を狙っているんだから手を放す必要はないわ。」
次の瞬間、ちあきの髪が切り落とされた。持っていた水鉄砲を投げ捨てた。
「そうか。そこまでするか。俺をそんなに怒らせたいんか。」
「…どうせ、犯人が私たちだとわかった時点であなたに嫌われるのはわかってること。」
「なるほど、つまりおまえさんは嫌われたならどれだけちあきに手を出しても同じだと考えたわけか。」
ちあきの髪をなおも掴んでいた会長を突き飛ばし、ちあきを抱きしめた。
「短くなってしもうたか…女が髪を切られるのは辛いじゃろに。」
『平気。』
「さて、おまえさんら。よう覚えときんしゃい。ちあきは俺ん彼女じゃ。」
「うそ…」
『…雅治。』
俺の言葉で泣き始め、走りはじめた。
その場からファンクラブが去ったのを見届け、再度ちあきを抱きしめた。
「悪い。」
『ううん。私が雅治との約束を破ったから…』
そのあと、話を聞いたところ教室移動から帰るとちあき宛てに手紙が机に入っていたらしい。
「なんで言わんかった?」
『雅治に言えば、来るんじゃないかって思ったの、』
「俺んウサギは勇敢じゃのう。」
『雅治を巻き込みたくなくて…』
そう言ったちあきを抱き寄せた。なにも言わなくてもちあきも俺の背に手を回した。
「髪。一番短いところに合わせて切ればショートカットになるぜよ。」
『いいよ。髪の毛切ろうと思ってたし。傷んでたし、早く切りなさいってことだったのかも。』
ちあきがそう苦笑して言った。髪を切ろうと思った理由を聞いて複雑だった。
断ち切ってくれる嬉しさ、本当にいいのか不安と悲しさが入り交じった。
『前の彼氏が私の長い髪が好きだって言ってたし。もう忘れたいから。』
「じゃあ今日、美容室連れてっちゃるよ。俺が行き着けの美容室でよければ。」
『雅治行き着けの美容室?』
ちあきは俺ん髪を見て、そして自分の髪を引っ張り見てこう言った。
『雅治みたいな男の人の髪も上手にカットするんだから女の人もきっと上手なんだろうね。』
「じゃあ、予約空いてるか聞いておく。」
『うん!』
「ところでそん頭どうする?」
『あー…とりあえず縛ってればわからないよね。』
「放課後までん辛抱じゃ。」
その日、部活は遅刻すると伝えた。放課後、約束した美容室までちあきを案内するために。
本当は休んでも良かったんじゃ。
『明日の楽しみにしてて?』
ちあきがそう言わなきゃな。
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あささま
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