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《辛抱、そして忍耐》
―ちあき視点―


土曜、日曜と二日の休みを経て学校に行って異変に気付いた。それと同時に恐れていたことが現実になったと理解した。


「あれ?なにしてんの、ちあき。」

『あ。捺、おはよう。』

「なんかあった?」

『ううん。なんでもない。』

「先に教室行くね。」

『うん。』


クラスメートの捺が怪しいと思うくらい私は下駄箱に手をかけたまま時間を過ごしていたみたい。

実際は捺が私を見たときは一度、下駄箱を開けて閉めた後だった。


『(…靴がない。)』


靴の代わりに下駄箱にあったのはファンクラブからの挑戦状だった。それを手中で握り潰して鞄に突っ込んだ。


『(仁王くんに近付くな。…か。)』


どうしたらいいかわからず、そこで佇んでいた。

靴を返してもらいに行くか、探すか。そこでふと思い出したのは意外なものだった。


『(こういう展開だとたいてい焼却炉のゴミ置場にあるんだよね。)』


昔読んだ少女漫画の内容だった。イジメに立ち向かう主人公も靴を捨てられていたことがあった。

それを思い出して靴を探しに行くことにした。


『んー…あ。あった!』


案外早く見つかり、ほっとした。靴についた砂を払い、それを持って校舎に向かった。

こんなことをしていたせいでホームルームが始まるギリギリのところで教室に駆け込むことになった。


「矢倉遅いぞー!」

『すいません、寝坊したんです。』


その言葉を誰も疑わなかった。雅治だってそう。ただ、雅治には言えないと思った。だから黙ってた。

でも、それがいけなかった。

その日から嫌がらせはエスカレートしていった。

教科書がなくなり、筆記用具がなくなり、ノートに死ねと書かれてあったり、鞄に牛乳がかけられていたりした。


『……はぁ。牛乳は臭いよ。』


移動教室中になにかしら仕掛けるらしく、帰ってくると嫌がらせが待っていった。

牛乳なんて陰湿だ、と思いつつ、仕方なくハンカチで拭き取った。


「ちょ、酷くない!?」

「なんでちあきも黙ってんの!?」

『……』

「変なところ我慢強いんだから。」


事情を悟られた友達の捺に呆れられた。

でも、言えない。あなたのせいで嫌がらせを受けてます、なんて。


「なに?なんかあったん?」

『!、ううん?』

「ちあき…」

『捺、私…資料取りに職員室に呼ばれてたから行ってくる。』

「あ。ちあき!」


鞄を持って職員室に行く振りをしてトイレに向かった。そこにある掃除道具を洗う洗面台で鞄を洗った。


『帰るまでに乾くかな…?』


臭いはましになったけど、このまま教室には帰れないから保健室までタオルを借りに行った。

そこでタオルで拭いたから夕方までには乾く程度にまでなって一安心だった。


『…ふぅー』


気に入らなければ嫌がらせをするっていう神経と考え方が信じられない。でも、そういう形でしか訴えられない人なのかもしれない。

それにしても嫌がらせを受けて4日目になる。いい加減、我慢も限界に近付いてきた。辛抱が足りないとかいう問題じゃない。

鞄をカビさせたかったのか、弁当を台なしにしたかったのかわからない。


『(これ以上ひどいことはないよね。)』


ふと、そんなことをそのときは思ったけどその日の部活が始まるとき、事件は起きた。


『(あれ?シャーペンがない。)』


部誌と一緒にしてあった雅治がくれたシャーペンがなかった。代わりにこんな手紙があった。


『(1階女子トイレ、一番奥の洋式トイレの扉の裏に貼付けてあります。)』


罠かもしれない。でも、あれだけは盗まれては困ると思い、なんでシャーペンを狙ったのか疑問を咀嚼しつつ、トイレに向かうことにした。


『あ。真田くん、』

「ん?なんだ。」

『トイレに行ってくるから部活遅れそうなの。幸村くんに伝えてくれる?』

「承知した。」


真田くんに言伝を授け、私はトイレに向かった。放課後、みんなが部活動を始めた頃にこの1階女子トイレは人気がなくなる。


『一番奥の裏…あ。』


洋式トイレの扉の裏には確かにシャーペンらしきものが貼付けてあった。それと確認できなかったのはガムテープで何十にも貼付けてあったから。


『もう!』


貼付けてあるガムテープを剥がすのに夢中になってて上から降ってきたものに驚く間もなかった。

冷たい。

臭い。

ただそれだけだった。


「ぷっ、あはは!」

「調子に乗るからよ。」

「早く仁王くんの前から消えなさい?」


すぐにポケットから携帯を取り出してトイレットペーパーで拭いた。幸い、携帯にまで被害は及んでなかった。

濡れたのは私と着ていた制服だった。


『…っ、…んで……なん…で…』


もう、泣いてもいいよね?

私、十分我慢したもん。

震える手でガムテープを剥がした。しばらくすると携帯が便器の蓋の上で振動し始めた。部活が始まってからどれぐらい時間が経過したんだろう?

今の私は声を殺して泣くしか出来なかった。なにが辛くて泣いてるかもわからなかった。

ただ、頭から被ったのは氷入りの牛乳だったから体が冷え始めた。

携帯を手に取ると着信1件とメール1件受信していた。時間はまた部活が始まって15分くらいだった。

みんなに見られないように帰るなら今だと思った私は人目を避けて学校を出た。

それからは覚えてない。

夢中で家まで走ったことしか――。





Special Thanks!

颯木捺さま






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