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《変えられぬ性(さが)》
―丸井視点―


ちあきがマネージャーをするって聞いて、かなりびっくりした。

レギュラーマネの優李が入院してるから、アイツの代わり――…だとしても、なんでちあきが引き受けたのか理由がわからなかった。

他にマネやりたいヤツなんていくらでもいるし、誰かから推薦されたとしてもちあきなら断っただろう。


「(頭いてー)」


昨日、ちあきと仁王が二人で楽しそうに話しをしながら帰っていったことも気になる。

跡部がいるのに最近、仁王と仲良くしすぎじゃないだろうか。


「(つか、仁王も仁王だよな。)」


ちあきを見守る一人として心配事が絶えない。お陰で寝不足だ。


「丸井、ペースダウンしている。」

「(跡部もだんまりだし、あそこカップルはどうなってんだよ。)」

「ちょ、ブン太さん、真田さんの目が釣り上がってますよ。」


隣から赤也が忠告してくれたけど、全く聞いてなかった。

ぼーとして、熱があるせいか上の空だった。


「なんか顔赤くありません?」

「へーきへーき。限界くれば木陰で休んでるしよ。(やべぇ。前見えね……)」


自分では変わらぬペースで走ってるつもりだった。

だけど視界が白くなっていって、周りがうるさいくらい俺の名前を呼んでいた。


「ブン太さん!」

「丸井!」

「丸井くん、しっかりしたまえ!」


それから間もなく、信じられないくらい静かになった。

その時、自分が意識を失っていたと気が付いたのはちあきの声で目を覚ましたときだった。


『ブン太!ブン太!』

「ちあき…」


俺の顔を覗き込んだちあきは俺が目を覚ましたのを見て安心したみたいだった。


「なんでマネなんかやりだしたんだよ?テニス部のマネだけは絶対やらないって言ってたくせに。」


目を覚まして言った言葉がこれだから笑えるよな。それだけ真剣だったってことよ。


「(前にマネをするのは嫌なわけではないって言ってたな。)」


立海男子テニス部のマネが出来ない。

それは彼氏が他校だから心置きなく応援出来ないのが理由だった。


『臨時だから。引退も近いっていうし、』


そんな理由でもちあきがマネをやるなんて信じられなかった。

あの跡部もテニス部のマネだけはするなって言ってた。

それだけではなく、部に所属すれば自由がなくなる。つまり、会う機会が減る。


「やっぱなにかあったんだろ?俺、昨日アイツに会い行ってきたんだ。」


最近、あまりにもちあきの様子がおかしいから俺は跡部に会うことにした。


「ちあきとなんかあったのか?」

「ちあきがなんか言ったのか?」

「いや。ただ、様子がおかしいから。」

「なんもねぇよ。」



跡部はなにも言わなかった。

ただ、なにかを隠して苦しんでイライラしてるってのだけはわかった。


「なんもないわけないだろ!」

「……丸井、そんなにちあきを心配すんならなんでアイツにアタックしなかった?」

「なんでおまえにそんなこと言われなきゃなんねーんだ、」

「その時点でおまえに口出しする権利はねぇだろ。」

「確かにそ…だけど。」

「悔しいよな。ずっと好きだったヤツが横から掻っ攫(かっさら)われてく、なんてよ?」



今までちあきにデレデレだった跡部に前のように幸せそうな雰囲気はまるでなかった。

ちあきが仁王と一緒にいるところを目撃することが増えた。

ちあきに彼氏がいることを仁王が知らないにしても、ちあきが仁王を受け入れるなんておかしい。


「なんか隠してんだろぃ?それはいくら鈍感でもわかるっつの。」


幼なじみという立場の俺が二人のことをとやかく言う権利は確かにない。

跡部が言うように悔しいだけかもしれない。

だけど、ちあきが幸せならそれでいいと思っていたから今回のぎくしゃくした二人の雰囲気は納得がいかない。


『……私、他に好きな人出来たの。』

「はぁぁあ!?」


ちあきの告白に驚きのあまり跳び起きた。今ので熱がグンと上がった気がした。

俺がちあきを諦めるのにどんなに苦労したか知らないとはいえ、こんな結果には満足出来なかった。


「その話、ちゃんと聞かせろ。まさか別れたとか言うのか?」

『…うん、ごめん。』


あっさり認められてカッと血が頭に上った気がした。いや、実際に上ったんだろう。


「おまえの気持ちはそんなもんだったのかよっ!あんなに幸せそうにしてたじゃねーか!!俺が納得するように説明しろよ!」


感情を抑えられずに上げた俺の声にみんなが驚いて振り返ったのに気付いた。

でも、周りなんか気にするほど余裕がなかった。


俺がこんなに怒ってるなんて珍しい、と周りが呟いていたのが聞こえた。

真田や幸村くんが止めに入ろうとしなかったくらいだ。余程、怒りに満ちているように見えたんだろう。


「ブン、もう止めてやりんしゃい。」


それであって、このタイミングで止めに入ったのが仁王だったから余計、腹が立った。

ちあきがいう好きな人が仁王だってのはその時点で確信したからだ。


「邪魔すんな!」

「矢倉を見てみろ。」


ちあきの辛そうな表情には堪えた。

涙を堪えてなにかを必死に隠しているように見えた。

そこまでして隠したいことだったんだ、と今更気付いた。


「…悪い、」


ちあきの涙を見てやっと冷静になれたなんて情けないな。

こんなタイミングで仲裁してくれたのが仁王だったのは悔しかった。

仁王もちあきを少なからず気に入っていたことを知っていたからだ。


「矢倉、大丈夫か?」

『にお…く、』


二人から互いのことをなにも聞いてない。聞く理由もない。

まだ、そんな段階まで発展していないのかもしれない。

だとしても寂しく感じた。

ちあきが好きになったのが俺じゃない男だったことやあの仁王が友達(俺)より女に意識が傾いたことに――。


『嘘、ついてごめん…ね。私…フラれたの。ごめんねブン太。』

「謝るのは俺だろぃ。悪かった…悪かったなちあき。」


でも、認めなければいけない。

黙ってちあきの心を受け入れなければいけない。俺はいつだってちあきの味方だったから。

幼なじみだから、いつだってちあきへの気持ちをごまかしてきた。

その代償が今、こんなにも苦しくのしかかるとは思いもしなかった。





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