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《恋まっしぐら》
―仁王視点―


矢倉を好きになってきているとわかった途端、大胆かつ積極的になった自分に自分で驚いていたりして。

放課後デート(ただのテニスじゃけど、)に誘って、マネ業を勧めた。

臨時でマネを探しとうのもあったが矢倉がマネになれば彼女と過ごす時間や思い出が多くなると思った。


『よろしくね。』

「こちらこそ、」


それでその日、男避けにマネージャーには必須アイテムとなるシャーペンをプレゼントした。

他の部でもそうだが立海では彼氏がいるマネージャーはたいていシャーペンを彼氏に持たされている。

だからまず、部員はマネに聞くのだ。

誰かからの貰い物ですか?――と。


「(実際、ついこの前まで健在だった優李は彼氏(幸村)からシャーペンをプレゼントされとったのう。)」


帰宅部の矢倉がそれを知っている可能性は低い。だから、良い男避けになる。


『明日から早速使うね!』

「それは嬉しいのう。」

『ありがとう。』


矢倉が知ったら迷惑がるだろうか?

それでも矢倉を好きになった以上、卑怯な手をつかってでもこの恋を全うしたかった。

少しでも近付きたかった。


『今日も送ってくれてありがとう。』


最近じゃ、変質者があちこちうろついてて被害が報告されているから矢倉も心配で一人で帰せない。それに本人は全く危機感がないから余計じゃ。

その日は帰宅したところを矢倉の母親に目撃された。

俺が思うのはただ一つだった。


「こんばんは。」

「娘を送ってくれてありがとう。」

「いえ、」


俺達がどう見えたかだった。





さて、矢倉の母親に軽く挨拶をしてから歩き出してそれほど時間が経たぬうちに矢倉が血相変えて走っていった。

なにがあったのか気になった俺は追い掛けた。


「どうしたん?」


聞けばゴミに俺があげたペットボトルが混じって捨てられたとか。

たかが150円の物をそんなにも大事にしてくれていたなんて嬉しい。

きっと同じ物をあげたところであの時の代わりの物にはならんじゃろう。


『あの時の気持ちが嬉しかったの。でもないんだから仕方ないね…』


俺にはウサギの耳が力無く垂れ下がっている、つまり余程落ち込んでいるように見えた。


「あん時、巻いてやったハンカチやるぜよ。」

『…もらっていいの?』

「矢倉がそれで悲しい顔しないならそれでいい。」

『ありがとう!』


嬉しそうに笑う矢倉を見て俺は満足だった。

そんなに大切にしてもらえてたなんて俺は幸せだと感じた。


「(こんなに好きだと思えるなんてな。)」


彼女にどうすれば気持ちが伝わるか、考えるようになっていた。(伝える勇気はこれっぽっちもないが…)

いつも矢倉のことばかり考えていた。


「仁王!ミスが目立つ。」


だから翌日、朝練の最中に真田から注意を受けた。が、左から右に抜けていた。(ダメなヤツ。)

朝練後、幸村に近付いて矢倉のことを話した。


「幸村、マネ見つかったん。」

「それは助かる。」

「うちのクラスの矢倉。」

「矢倉さん?あぁ、君がアタックしてるという彼女か。」

「…なんなんそれ。」

「とぼけても無駄だよ。俺にはなんだってわかる。」


さすがは魔王…いや、神の子と呼ばれただけある男。

全身、鳥肌が立つほど怖い笑みを浮かべていた。


「そうそう、今月の三連休は合宿を計画してる。だからマネージャーが臨時で見つかって助かった。」

「ふーん?」


高校3年ともなれば進学か就職か、進路に関して忙しくなる。

そのため、中学や高校2年のときより大会に向けて必死になることはない。

なんにしても合宿に関してあまり深く考えとらんかった。男ってのは荷物少ないからな。





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